水源独占、資源乱掘、先住民迫害...中国のチベット高原「破壊」がアジア全域に及ぼす影響とは
CATASTROPHE ON THE ROOF OF THE WORLD
その影響は甚大だ。チベット高原はアジア全域を見下ろすようにそびえているため、地域の気候やモンスーンのパターンに大きな影響を与えるだけでなく、北半球全体の大気循環(赤道から高緯度へ暖かい空気を運ぶ風のシステム)にも関わっている。高原の劣化が進めば、干ばつや洪水の増加、生物多様性の喪失、農業崩壊などがアジア全域、さらには世界各地で起こりかねない。
それなのに、国際社会はチベットについて驚くほど沈黙している。理由は無関心ではなく、恐れだ。中国はその影響力を使って、「世界の屋根」での行動に対する批判を封じ込めてきた。国際社会は中国にひるむことなく、その活動に対する透明性を強く求め続けなければならない。
中国は先住チベット人の権利侵害についても責任を問われなければならない。2000年以降、父祖の地から強制移住させられたチベット人は100万人近くに及ぶ。
いま行動しなければ、その代償は極めて大きい。チベット高原はアジアの生態系における生命線だ。中国がこの高原をアジア全域の、そして世界中の人々の暮らしを根底から揺るがすような形で利用することを許してはならない。
ブラマ・チェラニ
BRAHMA CHELLANEY
インドにおける戦略研究・分析の第一人者。インド政策研究センター教授、ロバート・ボッシュ・アカデミー(ドイツ)研究員。『アジアン・ジャガーノート』『水と平和と戦争』など著書多数。