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王様になりたいトランプ、アメリカ大統領の「ロシア化」とは? 阻止する方法は?

Trump is ruling like a ‘king’, following the Putin model. How can he be stopped?

2025年2月25日(火)20時08分
ウィリアム・パートレット(豪メルボルン大学公法学准教授)
王冠をかぶったトランプのイラスト

ホワイトハウス公式Xアカウントに現れた王冠をかぶったトランプ (Photo by Beata Zawrzel/NurPhoto)

<合衆国憲法を骨抜きにし、三権分立の「三権」をも超越したロシアのプーチン大統領のような強大な権力を手にしたいトランプ。早く止めなければ取り返しがつかなくなる>

ドナルド・トランプが米大統領に返り咲きを果たしてから1カ月。彼が米大統領の役割を根本から変えようとしているのは彼の行動から明白だ。

トランプとその支持者たちは米大統領が持つ本来の権限は、ロシアの大統領や一国の国王に近いものだと解釈している。トランプは先週、ソーシャルメディアへの投稿で自らを国王になぞらえて見せた。

「王様万歳!」── ドナルド・トランプ

大統領職を「ロシア化」しようとするこの動きは偶然ではない。トランプや彼の支持者の多くは、ウラジーミル・プーチンがロシア大統領として行使している国王のような権力に憧れを抱いているのだ。

アメリカに国王が誕生するのを阻止するいちばんの方法は、トランプが大統領権限をどのように変えようとしているかを理解して手を打つことだ。

選挙で選ばれた国王

ロシアの統治制度において大統領はある種、選挙で選ばれた国王のような存在であり、筆者はこれを「王冠大統領制」と呼んでいる。

この制度の中核をなすのは以下の2つの権力だ。

第一に、ロシアの大統領は三権分立の三権の制約をも受けない極めて強い権限を持つ。そのため「超大統領制」とも言われてきた。プーチンは選挙で選ばれた議会とは無関係に、大統領令を通じて一方的に権限を行使する。

プーチンは大統領令で戦争を起こし、経済の民営化を推し進め、2014年以降ロシアが占領しているウクライナの一部領土を自国のものだと主張するために憲法の改正まで行った。

プーチンは大統領令を人気取り手段としても利用してきた。たとえば、それを実行する能力がないにもかかわらず、ロシアの全公務員賃金引き上げを宣言した。

トランプもこの1カ月、大統領令をフル活用してきた。

トランプは数多くの大統領令に署名し、アメリカの政策を広範囲にわたって一方的に作り変えてきた。トランプがこれまでに署名した大統領令の数は歴代大統領を大きく上回り、彼はこれらの大統領令を「自らの絶大な大統領権限を行使し、誇示する手段」だと考えている。

プーチン支配の意外な源泉

国王さながらの権力を持つプーチンのもう一つの権力の源泉は、ロシアの国会が法律を作って行政機関を組織したり、大統領の支配から独立した組織を設立したりするのを禁じていることだ。

つまりプーチンは行政機関の組織と人事の両方に対して絶対的な支配権を握っている。政敵についての情報収集や訴追も思いのままだ。

アメリカでも今、これを真似るような動きがみられる。その意味で、トランプが米司法省やFBIのトップに自らに忠実な人物を指名したのは脅威だ。

さらに幾つかの政府機関を完全に廃止し、そのほかの複数の政府機関を大幅に縮小することで行政機関を再編しようとしている。

裁判所は止められない

トランプによる米大統領職の「ロシア化」の試みは、アメリカの憲法秩序を根本から弱体化させる。

このような危機に「初期対応」を行うのが裁判所の本来の役割であり、実際に多くの裁判所が、トランプが大統領就任直後に出した大統領令の一部に「待った」をかけてきた。

この法的対応は重要だが、それだけで十分とは言えない。

下級裁判所の判断がどうあれ、トランプに選ばれた判事が多数を占める連邦最高裁が大統領権限の拡大を容認する可能性が高い。

トランプが2020年米大統領選の結果を覆そうとした容疑で起訴されていた裁判で2024年、在任中の公的な行為について「免責特権」を認める判断を下したのが一例だ。

権限強化の根拠「行政権一元化論」

また大統領令は簡単に撤回したり修正したりすることができる。トランプと彼の法務担当チームは大統領令について訴訟が起こされた場合、その内容を連邦最高裁で最も認められやすい形に「再調整」することができる。

右派の一部ではかねてから、大統領にはるかに強い権限を与えるべきだという意見があった。長年、保守派の中で議論されてきた主張の一つが「行政権一元化論」だ。簡単に言えば、一般的な官僚から、検察官、連邦捜査局にまで及ぶ行政府全体を支配する力を大統領が持つべきだというもの。

この主張はすでに、二期目のトランプの行動を正当化するために使われている。イーロン・マスクが、(大統領選挙で大勝したトランプは)行政府の大規模リストラにおいて「有権者からこれ以上ないほど強い権限を得ている」と述べたのもその例だ。

こうした主張は今後の法廷でも、トランプの権限拡大を正当化するために使われるだろう。

仮に連邦最高裁が一部の大統領令を差し止めたとしても、ホワイトハウス側が、差し止め命令を単に無視することもあり得る。こうした姿勢の一端が垣間見えたのが、トランプによる「自らの国を救う者は、いかなる法にも違反しない」という投稿だ。

J・D・バンス副大統領も、大統領の「法にかなった権限」を裁判官が差し止めることは「許されていない」と発言している。

政治にできる抵抗とは

トランプによる大統領権限の攻撃的な行使は、憲法上の危機にとどまらず、政治的な危機でもある。これに抗おうとする者にとっては、この問題は重要であり、ただ法廷に任せきりにしていいものではない。アメリカの主要な政治機関も取り組むべきだ。

出発点は、間違いなく連邦議会だ。連邦議員は、憲法によって自らに与えられた法的権力を行使し、毅然として大統領の権力を監視しなければならない。予算を通す権限をもつのは議会であり、大統領を監視する権限も議会にある。

共和党議員の中で、憲法に関する重大な問題について自らの信念に基づいた立場をとる者が数人でもいれば、トランプの決断を覆すことは可能だ。だがこれまでのところ、ほぼすべての共和党議員がトランプ政権の方針に従っている。

2026年の中間選挙で民主党が連邦議会選挙で勝利して、議会の監視が強化されるシナリオもあるが......。

各州政府も、この大統領権限拡大に対抗すべく行動を起こすことができるし、そうすべきだ。この行動はさまざまな形をとりうるが、たとえば、各州が憲法や法に違反しているとみなした大統領令の実行を求められた場合、州の法執行機関の出動を拒否することができる。

憲法を守るための行動として、トランプの行為が憲法違反だとアメリカ国民に訴えることもできる。アメリカの大統領を、ロシア風の「選挙で選ばれた王」に変貌するのを許してしまえば、民意に応えない腐敗した政治の温床になる、と訴えるのだ。

ニューヨーク・タイムズのコラムニスト、エズラ・クラインの表現を借りるなら「それこそが腐敗だ」ということだ。

時間は重要だ。ロシアが身をもって示しているように、「王冠大統領」が思うがままにふるまう期間が長引くほど、独裁体制はますます強固になる。アメリカの民主主義を守るには、今は法律に頼るだけでなく、政治的な抵抗も実行に移すべき時だ。
(翻訳:ガリレオ他)


The Conversation

William Partlett, Associate Professor of Public Law, The University of Melbourne

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

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