「患者の命より自分の利益...」揺れる韓国医療、研修医ストライキが招いた悲劇の実態

KOREAN DOCTORS ON STRIKE

2024年11月7日(木)16時20分
ウヌ・リー(ライター)

儲かる分野に医師が集中

医師たちが政府の医学部定員増計画に反対する2つ目の理由は、大学側の受け入れ体制への懸念だ。

数字上は、韓国の大学は欧米先進国と比べて教授1人当たりの学生数や1校当たりの学生数が少ない。ただし大学間の格差が大きく、一部の大学では学生の定員増に対応できない恐れがある。解剖学の授業で使用する遺体が不足し、学生の実習に支障を来すケースも予想される。


だがこれらの懸念がいかに正当なものであっても、韓国の医師不足を否定する材料にはならない。増員計画を撤回させるには不十分だろう。

そこで医師たちが最終的に増員計画への反対を正当化するために主張しているのが、増員よりも各分野にバランスよく医師を配置することが解決策になるという議論だ。

韓国では命に関わる診療行為への報酬が低く、訴訟リスクは高い。そのため、どうしても皮膚科や美容外科、眼科や整形外科といった「低リスクで儲かる」診療科を選んで開業する医師が多くなる。

結果、救急医療や胸部心臓外科、小児科、神経外科や内科などの診療科では慢性的な医師不足が発生している。22年には各病院が産科の研修医を募集したものの、募集枠の8割しか集まらなかった。心臓血管外科で訓練を受けた専門医の82%が別の診療科に転向しているというデータもある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米司法省、コミー連邦検事補を解任 元FBI長官の娘

ビジネス

7&iHDが急落、クシュタールが買収提案撤回 TO

ビジネス

ユナイテッド航空、第3四半期利益見通しが予想下回る

ワールド

エア・インディア機墜落事故調査、機長の行動が焦点=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 2
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 3
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏にも送電開始「驚きの発電法」とは?
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 6
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 7
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 6
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失…
  • 7
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 8
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 9
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 10
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 7
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中