最新記事
バングラデシュ

マイクロクレジット創始者の間近で過ごした3年間

Working for Professor Yunus

2024年10月2日(水)19時11分
シャムス・イル・アレフィン(米エール大学バークレー・カレッジ研究員)
ユヌスと筆者

ユヌス(左)は初対面のとき、おどおどと話す筆者(右)の話を笑顔で聞いてくれた SHAMS-IL AREFIN ISLAM

<苦境のバングラデシュの舵取り役という新しい使命に挑む、ノーベル平和賞受賞者ムハマド・ユヌスの強みとは>

私がアメリカの大学を卒業したのは、金融危機の最中の2007年。将来に不安を感じていた私は、活路が開けることを期待して、はるばるバングラデシュに旅立った。

あるイベントでムハマド・ユヌスと少しだけ言葉を交わせたことは本当に幸運だった。マイクロクレジット(低所得者の経済的自立を助けるための少額融資)の創始者であるユヌスは、この前年にノーベル平和賞を受賞したばかりの話題の人物だった。


ユヌスは、おなじみのチェックの長いシャツと白いズボンにサンダルという姿で、満面の笑みを浮かべ、私がおどおどと話すのを最後まで聞いてくれた。たぶん私をかわいそうに思ったのだろう。「じゃあ、履歴書を送って」と最後に言った。

こうして私は、バングラデシュの首都ダッカのミルプール地区にあるグラミン銀行の本部を訪ねることになった。ユヌスが創設した同銀行は、何百万人もの人々に担保なしで融資を行っている(同銀行によると、借り手の97%が女性だという)。

ユヌスのオフィスに足を踏み入れると、うだるような暑さだった。エアコンはなく、遠くの扇風機が夏の暑い空気をかき混ぜていただけだった。ユヌスは大きな木の机の向こう側に、クッションなしで木の椅子に腰掛けていた。

高潔でエネルギーは無尽蔵

ユヌスのオフィスには、わずか7人のスタッフしかいなかった。

私の仕事はあらゆるアシスタント業務。主に講演のスケジュール調整や原稿の草稿執筆を行うことになった。

最初に書いた草稿は雑誌の寄稿記事だった。私は一心不乱に、流麗で情熱的な文章を書き上げた。仕上がりにはけっこう自信があった。

ユヌスは、どんなに膨大な量の仕事が積み上がっていても、やるべきことを放置したりはしない。30分もたたずに草稿が戻ってきた。

文章の修正とともに、厳しい指摘が詳細に記されていた。ユヌスの文章作法は、分かりやすい言葉で、誰でも理解できるように単刀直入に書くというものだった。

こうして、私の3年間の学びの日々が始まった。

ユヌスのデスクの上には、いつ見てもりんごと山積みの書類があった。特に重要な文書は、敷地内の小さなアパートに持ち帰り、夕食後に検討していた。そうした中には、グラミン銀行の手法を学びたいと考える世界の指導者たちから届く手紙もあった。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が

ビジネス

NY外為市場=ドル対ユーロで軟調、円は参院選が重し
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中