EV大国中国の試練...販売減速と欧米規制の中で「生き残りのカギ」とは?

HERE COME THE CHINESE EVS

2024年7月16日(火)13時40分
湯進(タン・ジン、みずほ銀行ビジネスソリューション部上席主任研究員)

newsweekjp_20240711045229.jpg

燃費や低価格が支持されるBYDのPHEV COSTFOTOーNURPHOTOーREUTERS

2つ目は充電の利便性だ。今年5月末時点で、中国の公共・個人用の充電スタンドの設置数は992万4000カ所と世界最大規模を誇る。しかし、公共充電スタンドは主に沿海部に集中し、広東、上海、江蘇、浙江、山東の5地域で中国全体の47%を占める。インフラ整備の格差、都市部の住宅事情による個人専用スタンドの不足がEV普及の足かせだ。

さらに充電技術の向上もEV普及に欠かせない。EVの普通充電は6時間以上、既存の急速充電を利用しても1時間必要だ。現在、中国EVの新興勢が専用充電器の設置や充電時の電圧800ボルトに対応する新型電池の搭載を通じて、中高級EVの急速充電を実現したものの、公共充電施設における一般車両の充電時間の短縮が依然として課題に残る。

最後は安全性だ。昨年末時点で、中国のNEV保有台数は2041万台に達した一方、火災事故も増加している。21年の火災事故は約3000件。中国国家応急管理部によれば、22年1~3月には前年同期比32%増の640件で、1日当たり平均7件の事故が発生した。

車両10万台当たりの発火台数を概算すると、中国ではエンジン車(商用車・二輪車を含む)が5.8台なのに対し、NEVは4.4台。充電スタンドの欠陥や過充電、損傷や気温上昇による電池の熱暴走などが原因に挙げられる。エンジン車と比べるとNEVの火災発生頻度は低いが、電池が発火すると車両の消火が難しいのが実情だ。人気ブランドの発火事件が目立つこともあり、消費者にとっては電池の品質などを含む車両の安全性や信頼性が懸念点の1つだ。

エンジン車より安いPHEV

パンデミック後の中国新車市場においては内需回復が鈍いなか、国民所得の伸び悩みによりファーストカー購入者が減少。昨年に入ってからEVやPHEVをめぐる値下げの動きが広がっている。

テスラやBYDをはじめ、トヨタ、フォルクスワーゲン、GMも相次いで値下げし、中国市場ではEV、エンジン車を問わず価格競争の波が押し寄せている。

そうしたなか、PHEVはEVより走行パフォーマンスを維持しやすく、足元の実需には適しているため、需要が伸びている。

特にBYDは昨年、「油電同価(エンジン車と電動車は同じ価格)」というキャッチコピーを掲げ、PHEVでエンジン車市場に攻勢をかけた。今年も「電比油低(電気は燃油より価格が低い)」を打ち出し、PHEVの価格破壊でエンジン車市場を一気に刈り取ろうとしている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドルおおむね下落、米景気懸念とFRB

ビジネス

ステーブルコイン普及で自然利子率低下、政策金利に下

ビジネス

米国株式市場=ナスダック下落、与野党協議進展の報で

ビジネス

政策不確実性が最大の懸念、中銀独立やデータ欠如にも
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 8
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 9
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 10
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中