最新記事
ウォール街

映画『ウォール街』の非情な投資家ゴードン・ゲッコーのモデルになった大物トレーダー、死去

How Ivan Boesky, Infamous 1980s Wall Street Trader, Inspired Gordon Gekko

2024年5月22日(水)16時07分
モニカ・セイガー

インサイデー取引で摘発されたボウスキー。ヘリで通勤し、睡眠3時間で稼ぎまくる生活は終わった¥Bad Money-YouTube

<金で金を生むことに誰もが血道を上げた1980年代のウォール街で、最も稼いだトレーダーにまで上り詰め、インサイダー取引ですべてを失ったアイバン・ボウスキの教訓>

かつてウォール街の大物として名声を極め、証券詐欺で有罪判決を受け、映画『ウォール街』の主人公ゴードン・ゲッコーのモデルになったアイバン・ボウスキーが5月20日、カリフォルニア州の自宅で死去したことを家族が確認した。享年87歳だった。

 

活況を呈していた1980年代のウォール街において、ボウスキーは、最も裕福で影響力のあるリスクテイカーの一人とみられていた。義母の遺産70万ドルを元手に裁定取引専門会社を立ち上げて大成功を収めたが、1986年にインサイダー取引で摘発され、キャリアは崩壊した。

この事件で彼は実刑判決を受けて刑務所に入り、1億ドルという当時として最高額の罰金を当局に支払った。こうした軌跡を経て、彼はこの時代の強欲と不品行を象徴する存在となった。

ボウスキーは1986年にカリフォルニア大学バークレー校経営大学院の卒業式でスピーチを行い、学生たちにこう語った。「強欲は正しい。そのことを知ってほしい。強欲は健全だと思う。強欲であっても、自分を誇らしく思うことはできる」。

金儲けに徹した人生

その1年後、彼のこの発言はオリバー・ストーン監督の1987年の名作『ウォール街』でマイケル・ダグラス演じるゴードン・ゲッコーのセリフに取り入れられたこ。この作品でダグラスはアカデミー主演男優賞を受賞した。

「重要なのは、紳士淑女の皆さん、強欲は、なんというか、善であるということだ」と、ゲッコーは株主に語る。「強欲は正しい。強欲は役に立つ。強欲は進化の精神を明確にし、切り開き、惹きつけるのだ」

ストーンが作り出したゲッコーは、ボウスキーだけでなく、株式仲買人として成功したストーンの父ルイス、投資銀行家デニス・レビーン、アートコレクターのアッシャー・エデルマン、ハリウッドの代理人マイケル・オービッツなど、当時の金融界で有名だったさまざまな人物を組み合わせたキャラクターと言われている。

転落した後も、ボウスキーは生涯を通じて「ゲッコー・スタイル」を体現していた。高級ブランドを身にまとい、リムジンや自家用飛行機で所有する複数の邸宅を行き来していた。

「相当な額の資産があった」と、ボウスキーは93年の離婚協議の手続きで述べた。「私たちはパームビーチ、パリ、ニューヨーク、南フランスに家を所有していた」。ニューヨーク州ウェストチェスター郡にも約900平米の邸宅を所有しているが、これは建国の父トーマス・ジェファーソンの邸宅モンティチェロに似せたドーム屋根のある豪邸に改築したものだ。

「アイバン・ボウスキーにとって重要だったのは、金儲けだった」と、作家のジェフ・マドリックは2019年にニューヨーク・タイムズに語っている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

インド経済は底堅い、油断は禁物=財務相

ビジネス

アングル:法人開拓に資本で攻勢のメガ、証券市場リー

ワールド

韓国大統領、北朝鮮に離散家族再会へ検討求める

ワールド

ベトナム中銀、成長優先明示 今年の与信は19─20
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 3
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    MITの地球化学者の研究により「地球初の動物」が判明…
  • 6
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 7
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 8
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 9
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 10
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 6
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 10
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中