最新記事
テロリズム

ISは復活し、イスラム過激派が活性化...モスクワ劇場テロで狼煙を上げた「テロ新時代」を地政学で読み解く

A GROWING THREAT

2024年4月12日(金)17時37分
カビル・タネジャ(オブザーバー・リサーチ財団フェロー)

newsweekjp_20240411024418.jpg

モスクワの法廷に引き出された容疑者の1人 MOSCOWCITY COURT'S PRESS OFFICEーREUTERS

21年の米軍のアフガニスタン撤退と、それに続くタリバンの権力掌握は、この地域の力学に大きな影響を与える出来事だった。ただ、アジアにおける新しい戦略的競争に軸足を移したいと考えていたアメリカにとっては、アフガニスタンから撤退することは難しい選択ではなかった。

難しい状況に陥ったのは、タリバンという強力な過激主義組織が政権を握るアフガニスタンに対処しなければならなくなった周辺諸国だ。

それまで20年間のアフガニスタンは、アメリカとNATOの軍事的な傘の下で比較的安定していたから、近隣諸国(中国やロシアを含む)は自らの戦略的利益を追求することに注力できた。アフガニスタン国内の民族を支援することで、その政治に影響を与えることもできた。だが、米軍が撤退したことで、アフガニスタンは「アジアの問題」になった。

とはいえ、ロシアや中国やイラン(いずれもアメリカにとって最大の敵対国だ)は、この状況を喜んでいる。例えばイランは現在、アメリカとの関係が過去最悪レベルに落ち込んでいるが、そんなときに国境の東隣にいたアフガニスタン駐留米軍という大きな重しが消えた。

今も続く米軍「アフガン撤退」の波紋

イランは歴史的に、アフガニスタン、とりわけタリバンと対立してきた。1990年代には、アフメド・シャー・マスードを最高指導者とする北部同盟(タリバンと対立していた軍閥のグループ)を支援していた。インドやロシア、タジキスタンなども、タリバンおよびタリバンに資金を提供していたパキスタンに敵対する軍閥を支援していた。

ところが21年になると状況は一変する。イランは復活したタリバン政権と正式な外交関係や経済関係を結び、健全なレベルの反欧米姿勢と、イランとの国境を比較的平穏に維持することと引き換えに、タリバン政権への支援拡大を提案した。

イランと最も親しい国であるロシアと中国もこれに続いた。この3国は全て、ある意味でタリバンをアフガニスタンの事実上の支配者と認めた。中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は、タリバンが任命した中国大使の信任状を正式に受理した。

ロシアはソ連時代の79年に始めたアフガニスタン侵攻で米軍が支援した武装組織に痛い目に遭わされた経験から、今でもこの国への関与には及び腰だが、22年にはタリバンの外交官のモスクワ駐在を認めた。規制対象のテロ組織のリストからタリバンを外すことも検討している。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

IMF、日本の財政措置を評価 財政赤字への影響は限

ワールド

プーチン氏が元スパイ暗殺作戦承認、英の調査委が結論

ワールド

プーチン氏、インドを国賓訪問 モディ氏と貿易やエネ

ビジネス

米製造業新規受注、9月は前月比0.2%増 関税影響
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 7
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 8
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 9
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 10
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 10
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中