最新記事
テロ

ISが犯行声明を出しているのに「ウクライナの仕業」とするロシアに「既視感がある」

2024年3月25日(月)12時40分
ジェイソン・レモン
事件現場のコンサート会場

事件現場のコンサート会場では火災も発生(3月22日) MAXIM SHEMETOVーREUTERS

<モスクワ銃乱射はISが犯行声明を出したが、ロシアとウクライナは互いを非難。プーチン台頭のきっかけとなった1999年の高層アパート連続爆破事件に構図が似ている?>

100人以上が死亡、100人以上が負傷したモスクワ郊外での銃乱射事件について、ウクライナ情報機関はロシアのプーチン大統領が黒幕だと主張したが、その後過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出した。

ロシア国営RIAノーボスチ通信の第一報によると、モスクワ州西部の大規模なコンサート会場「クロッカスシティホール」で3月22日、数人の銃撃犯が発砲。少なくとも60人が死亡したと報じられた。ロシア連邦保安局(FSB)と政府高官は「テロ攻撃」と呼んで非難した。

ISは通信アプリ「テレグラム」に投稿した声明で犯行を認め、キリスト教徒を標的にしたと述べた。APの取材に応じた米情報当局者は、米政府はアフガニスタンのIS支部による攻撃計画があることを事前に知り、情報をロシア当局者に伝えていたと語った。

だがウクライナはその前に、プーチン政権の自作自演説を主張していた。

「モスクワのテロ攻撃は、プーチンの意を受けたロシア特殊部隊による計画的で意図的な挑発」だと、ウクライナ国防情報局(DIU)は22日のX(旧ツイッター)への投稿で述べた。「その目的は、ウクライナへの攻撃強化とロシアの総動員体制を正当化することだ」

DIUのアンドリー・ユーソフ代表はウクライナのオンライン紙ウクラインスカ・プラウダにこう語った。「自国民への犯罪行為でキャリアをスタートさせたクレムリンの暴君は、同じ方法でキャリアを終えようとしている」

一方、ロシア国家安全保障会議のメドベージェフ副議長はテレグラムへの投稿で、ウクライナが攻撃の背後にいる可能性を示唆した。「ウクライナ政権のテロリスト(の犯行)が立証されれば、彼ら全員を見つけ出し、テロリストとして容赦なく壊滅しなくてはならない」

米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー調査官は22日、「ウクライナやウクライナ人が関与した兆候は現時点でない」と説明。

これに対し、ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は「米当局者は何を根拠に潔白だと結論付けるのか」とロイターに語り、この攻撃に関するいかなる情報もロシア側に提供すべきだと強調した。

「ロシアの『偽旗作戦』だとか、ウクライナの陰謀だとか、噂は飛び交っているが、今のところ確かな証拠はない」と、米シンクタンク、ジオポリティカル・フューチャーズのアナリスト、エカテリーナ・ゾロトワは本誌への電子メールで指摘した。

「いずれにせよ戦時中の今、ロシア政府は弱腰になることはおろか、弱気を見せる余裕もない」

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏の昨年資産報告書、暗号資産などで6億ドル

ワールド

イラン、イスラエルとの停戦交渉拒否 仲介国に表明=

ワールド

G7、中東情勢が最重要議題に 緊張緩和求める共同声

ワールド

トランプ氏、イスラエルのハメネイ師殺害計画を却下=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中