最新記事
社会格差

日本は家庭環境による格差への認識が薄い社会

2024年2月21日(水)11時30分
舞田敏彦(教育社会学者)

<図1>の29カ国のうち、OECD加盟の19カ国については、政府の教育費支出がどれほどあるかを知ることができる。<図2>は、不平等の意識と関連付けてみたものだ。

data240221-chart02.png

 
 

明瞭ではないものの、公的教育費支出が多い(対GDP比で教育への公的支援が多い)国ほど、ライフチャンスの階層的規定性を感じる国民が少ない傾向がある。教育は社会移動(mobility)の重要な経路なので、首肯できることだ。

日本は傾向から外れている国の1つで、公的な教育支援が少ない(家計の負担割合が高い)にもかかわらず、家庭環境による格差への認識が薄い。成功しない、貧しいのは個人の努力不足のためと考える「ガンバリズム」によって、現実の不平等がたくみに隠蔽されている。為政者にとっては都合のいいことだ。

しかし日本でも、不当な格差の実態がデータで繰り返し提示され、低所得層の大学の学費を減免する修学支援制度や、返済義務のない給付奨学金の制度が2020年度より実施されている。昨年に策定された「こども未来戦略」では、多子世帯の大学学費を無償にする方針も示された。その是非はともかく、教育の機会均等に向けた政策の方向は間違ってはいない。

特に教員を志望する若者は、教育格差の問題にはセンシティブであって欲しい。おそろしいのは、無関心の状態になることだ。

<資料:「ISSP 2019 - Social Inequality V」
    OECD「Education at a Glance 2023」

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米に生産移転しない企業の半導体輸入に関税、トランプ

ワールド

トランプ米大統領、国防総省を「戦争省」に改称へ=政

ビジネス

ブロードコム第4四半期売上高見通し、アナリスト予想

ワールド

米政権、遅延便への補償金義務化計画を撤回 バイデン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害」でも健康長寿な「100歳超えの人々」の秘密
  • 4
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 5
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 6
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 8
    世論が望まぬ「石破おろし」で盛り上がる自民党...次…
  • 9
    SNSで拡散されたトランプ死亡説、本人は完全否定する…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 10
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中