最新記事
プロパガンダ

プーチンの最強兵器「プロパガンダ」が機能不全に...ちぐはぐな報道、ロシアではびこる原因とは

PROPAGANDA BREAKDOWN

2023年9月7日(木)12時30分
イザベル・バンブルーゲン(本誌記者)、エフゲニー・ククリチェフ(本誌シニアエディター)

230912P48_RPD_08.jpg

「プーチンの声」ソロビヨフ GETTY IMAGES

宣伝工作の指導と解釈にずれ?

だが侵攻開始から半年がたった頃には、国営テレビでも「戦争」という言葉を耳にするようになっていた。口火を切ったのは、ロシア政府寄りで、「プーチンの声」とあだ名される人気司会者のウラジーミル・ソロビヨフだ。その後、複数の司会者やゲストたち、それにセルゲイ・ラブロフ外相やプーチン自身まで、この言葉を使うようになった。

「あえて統一しないほうがいいという考えでそうしたケースもあるだろうが、組織的な欠陥という面もある」と、ランド研究所のポールは言う。「紙媒体とテレビメディアの間にはたぶん、統制のメカニズムに違いがあるのだろう。そして異なる指揮が広がったり、組織の中の中間管理職や指導者や官僚の間で解釈違いが起きたのかもしれない」

侵攻開始直後に政府の弾圧の犠牲になったのが独立系テレビ局のドーシチだ。ウクライナ報道をめぐり、「戦争=フェイクニュース法」によって当局から放送を禁じられたのだ。昨年3月上旬の最後の番組では、スタジオからスタッフが「戦争にノー」と言いながら去って行く様子が生中継で放送された。

「戦争の始まりが、ロシアにおけるドーシチの終わりの始まりであることは、明らかだった」と、ドーシチのジャドコは言う。ドーシチは現在、オランダを拠点に運営されている。

ジャドコによれば、ロシア政府によるメッセージ発信の失敗は、戦争自体の性質と目的をめぐる根本的な「混乱」に端を発している。「こうしたずれは最初からあったし、その理由は明らかだ。ロシアがなぜ(戦争を)始めたのか誰も理解していないからだ」とジャドコは言う。「政府ですら分かっていないし、ロシア政府の宣伝工作(部門)はさまざまな事態にどのように反応すべきか理解するのに悩み、状況の変化に付いていこうと必死だ」

「ウクライナを『非武装化』するという話もそうだ。ウクライナの軍事増強がこれまでになく進んでいると(プーチンは)言うけれど、それはこの『作戦』がうまくいっていないということだ」とジャドコは言う。

ロシアメディアの報道によれば、今年6月に連邦議会のコンスタンティン・ザトゥリン議員も、政府はウクライナ侵攻における目標を達成できていないという趣旨の発言をしたという。昨年12月には、政府寄りのテレビ司会者オリガ・スカベエワが、ウクライナにおける戦争は「あらゆる面で」ロシアを「疲弊させ」ており、多くのロシア人は戦争を終わらせたいと思っているとまで国営テレビで発言。だがザトゥリンもスカベエワも起訴されたりはしていない。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

スイス銀行資本規制、国内銀に不利とは言えずとバーゼ

ワールド

トランプ氏、公共放送・ラジオ資金削減へ大統領令 偏

ワールド

インド製造業PMI、4月改定値は10カ月ぶり高水準

ビジネス

三菱商事、今期26%減益見込む LNGの価格下落な
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 8
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 9
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中