最新記事
医療

心臓が飛び出たまま成長した少年ミカエル、手術経て初めて胸の中で鼓動始めた

2023年8月19日(土)19時25分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
回診を受けるミカエルとシン·ユリム心臓血管外科教授

回診を受けるミカエル。これまで屋外で運動ができなかったため腕や足が極端に細い姿が痛ましい(写真提供・セブランス病院)

<大人のこぶし大の心臓が胸の上にぶら下がったまま鼓動して......>

生まれつき胸骨がないなどの理由で、心臓が体外に飛び出した状態で生まれる「心転移症(Ectopia cordis)」。新生児の12万5000人に1人の割合で発症し、そのうち9割が死産あるいは生後3日以内に死亡するという希少疾患だ。

インドネシアの少年ミカエルもそんな厳しい運命を背負った数少ない子供の一人だった。現地の医師からは2年しか生きられないと告げられたものの、両親の介護のおかげもあって奇跡的に7歳まで成長した。しかし彼の胸には大人の拳ほどの心臓がぶら下がっており、鼓動する様子がそのまま見える状態だ。母親は「心臓発作が起こるのではないかといつも心配していました。この子は普段から息がとても苦しい様子で......」と語り、もはや猶予の時間がないのは誰の目にも明らかだった。

この状況を現地の教会を通じて伝え聞いた韓国セブランス病院の医療スタッフは、招聘治療プログラムの対象としてミカエルを呼び寄せ、無事に彼の心臓を体内に収める手術に成功した。KBSなど韓国メディアが報じた。

海外の患者を招待して治療を行う

セブランス病院は、韓国ソウルの新村(シンチョン)にある延世大学医科大学の付属病院。朝鮮王朝では初の西欧型医療人材養成機関として1885年に設立された廣惠院を前身とする医療機関で、セブランスという名称は財政難だった1899年に米国の事業家ルイ・ヘンリー・セブランスから莫大な寄付を受けたことに由来するという。また、初期には運営に米国から来た宣教師たちが携わっていたこともあり、1935年までは病院長は米国から来た宣教師らが務めていた。

こうした設立当初からの経緯もあり、セブランス病院では2011年から経済的な問題や医療水準の問題で満足な治療を受けられない海外の患者を韓国に招待して治療を行う「グローバルセブランス、グローバルチャリティー」というプログラムを実施。これまで病院内外から計88億ウォン(約9億5000万円)相当の義援金を受けて、ハイチ、ケニアなど29カ国226人の患者を招待治療してきた。

今回、「心転移症」に苦しんでいるインドネシアの少年ミカエルへの手術や入院治療もこのプログラムを通じて行われ、外部の支援団体であるグローバル愛の分かち合い、韓国心臓財団、韓国基督公報などの後援もあったという。


>>【動画】心臓が飛び出た少年ミカエル

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、原油価格抑制呼びかけ 「敵の術中に陥る

ビジネス

再送-7月利下げ支持、インフレ圧力抑制なら=ボウマ

ワールド

NATO加盟国、防衛費GDP比5%に引き上げへ=事

ビジネス

米中古住宅販売、5月0.8%増 予想外に増加も低調
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり得ない!」と投稿された写真にSNSで怒り爆発
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 6
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 7
    EU、医療機器入札から中国企業を排除へ...「国際調達…
  • 8
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 9
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 10
    【クイズ】次のうち、中国の資金援助を受けていない…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 8
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 9
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 10
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中