最新記事
東南アジア

中国との共同事業のインドネシア高速鉄道、ソフト開業を延期 安全性確保のため

2023年8月10日(木)11時29分
大塚智彦

残る安全性への不安

KCICは6月22日に速度356キロを記録する最高速度試験走行に成功し、走行時の安定性、静粛性が確認されたとしていた。これを契機に独立記念日翌日のソフト開業、10月の営業運転開始という工程が具体的に動き始めた。

このとき、ブディカルヤ・スマディ運輸相は「10月の営業運転開始も8月に前倒しになるかもしれない」と計画が順調に進んでいることを強調、楽観的な見通しを示していた。

 
 
 
 

ただ一方で通常、営業運転開始前の試験走行には安全性を100%確実とするために繰り返し各種試験を数カ月から1年かけて実施するケースが多い中、6月22日から約2か月でのソフト開業には安全面で不安が払しょくできないとの声も出ていた。

今回、独立記念日に関連したいわば国を挙げてのイベントが、実施約10日前に延期されるという事態に、そうした不安が現実のものになったと見方もある。

KCICは問題点を明らかにする義務

6月22日の最高速度試験走行の「成功」を受けてソフト開業への期待を表明していた閣僚や関係者はこれまでのところ今回の延期に対して反応しておらず、期待を裏切られたとの思いを抱いている可能性もある。

その際に「今後日本製の中古車両の輸入は認めない」との趣旨の発言をして、高速鉄道計画の中国発注に煮え湯を飲まされた形の日本に「当てつける」ような姿勢を示したルフット・パンジャイタン調整相もさぞ「臍を噛んでいる」こととみられる。

ジョコ・ウィドド大統領が実際に試乗してのソフト開業の試験走行で「万が一の不確実性の存在や不具合の発生も許されない」状況の中での延期は、今後の「早急なスケジュール」にも影響を与える可能性がある。

なによりもKCICは今回の延期の理由がどこにあるのか、技術的な問題なのか運行上の問題なのか、それともそれ以外の問題なのかを明らかにする義務があるだろう。

そうした問題点を明らかにすることで安全性に対する不安を払拭することがなにより求められているといえる。

otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中