最新記事
女性

数十年におよぶ「宗教的な虐待」により「妊娠は病気」と信じ込んだ女性が、いま感じる後悔

The Church Made Me Childless

2023年6月29日(木)19時15分
アンドラ・ワトキンス(ベストセラー作家)
作家のアンドラ・ワトキンス

ワトキンスは半生を振り返った本で作家として知られるようになった COURTESY OF ANDRA WATKINS

<キリスト教保守派の環境で妊娠への恐怖を刷り込まれ、離婚してパニック発作を患った私が不妊手術を選ぶまで>

最近、アメリカのある判事は人工妊娠中絶に反対するキリスト教の超保守派の声を代弁してこう述べた。「妊娠は深刻な病気ではない」

私はサウスカロライナ州の保守的宗教組織「モラル・マジョリティー」が主導する中絶反対運動の渦中で育った。そして妊娠を絶対に避けるべき「病気」と見なして生きてきた。この環境のせいで今も子供がいない私には、判事の言葉は皮肉にしか聞こえない。

私は教会で、神から与えられた義務は女性として生殖を行うことだと教え込まれた。たとえ11~12歳でレイプされた結果妊娠しても、神からの聖なる贈り物として受け入れなければいけない。幼稚園の頃から、こうした類いの言葉を繰り返し聞かされてきた。

小学校では、血まみれの中絶反対映画を見ることを強いられた。思春期になると女子だけの礼拝で、肉体で男を誘惑しないようにと説教された。10歳で生理が来たとき、それが子づくりのサイクルの一部であることも知らなかった。10代になって書店で偶然見た本で、ようやくペニスとバギナ=子供だと知ったのだった。

母はピルを飲むと堕胎してしまうと信じていた。でも、もし私が10代の頃に避妊具を与えられていても、それを信用できなかったと思う。セックスしたら、うまく避妊できず妊娠してしまうと私は確信していた。だから男の子が私の膣に指やおもちゃ、性器を入れることを拒否していた。

10歳から結婚する23歳まで、私は「妊娠は絶対に避けるべき病気。妊娠したら人生が終わる」と呪文のように繰り返して、若い悶々とする体から性交を遠ざけた。

宗教的虐待こそが病気

私は結婚する前に初めて婦人科を受診して、母の立場に逆らってピルの処方を求めた。そこから、妊娠は病気だと15年近く自分に言い聞かせてきた私の避妊への執着が始まった。ピルを肌身離さず持ち歩き、毎日同じ時間に欠かさずに飲んだ。飲むのが遅れるとパニックになるほどだった。

挿入なしで夫を喜ばせられるなら、私はいつでも応じてあげた。自分の中以外で射精されることに安堵した。結婚が破綻した原因はいろいろあったけれど、私のセックスに対する消極的な姿勢と、妊娠の可能性に対する極端な恐怖は明らかな要因だった。

27歳で離婚したとき、それはセラピーを受けるちょうどいい機会のはずだった。でも私が育ったのは「キリスト教徒にセラピーは必要ない。聖書を読み、祈ればいいものを、なぜ世俗的なアドバイスを求める?」という環境だった。

インタビュー
現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ「日本のお笑い」に挑むのか?
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ハセット氏のFRB議長候補指名、トランプ氏周辺から

ビジネス

FRBミラン理事「物価は再び安定」、現行インフレは

ワールド

ゼレンスキー氏と米特使の会談、2日目終了 和平交渉

ビジネス

中国万科、償還延期拒否で18日に再び債権者会合 猶
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 6
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 7
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 8
    世界の武器ビジネスが過去最高に、日本は増・中国減─…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 5
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 6
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中