最新記事
ウクライナ情勢

「世界の関心が失われないように...」ウクライナ人歌手もコメディアンも戦い続ける

Pop Culture Goes to War

2023年6月1日(木)19時00分
マイケル・ワシウラ(在ウクライナ)
ジェリー・ヘイル

歌手のヘイルが胸に付けた国旗の下には「ウクライナに栄光あれ!」の文字が IRYNA SHEPETKO

<ゼレンスキー大統領もかつてロシアで名を挙げた一人。しかし、ロシアへの親近感はすっかり吹き飛んだ。「時代も私も変わった」と、祖国を支援するアーティストの今>

ロシア軍の戦車が国境を越えて侵入し、ウクライナの首都キーウに進撃を始めた昨年2月24日まで、ウクライナ人の人気歌手ジェリー・ヘイル(当時26歳)は陽気で少し自意識過剰な歌を歌っていた。

ヒット曲「あんたはキャンセル」は、ベッドで別の女性の名を呼んでしまった男の話。ショッピングや菜食主義を歌った曲もある。

「でも今は、コンサートで戦争前の持ち歌をリクエストされても歌う気になれない」

この3月、ウクライナ西部の都市イワノフランキウスクでのコンサートを前に、彼女は本誌にそう語った。

「今は時代が違う。だから文化も、その違いを反映する。私もその違いを反映する。私自身、今は違う人間だから。この1年で私はとても成長した。この国と一緒にね」

「今でも覚えてる。目が覚めたのは最初の爆発の1分ほど前で、なぜだか妙な予感がした。直後に最初の爆弾が炸裂して、『何これ、花火?』って思った。それで窓の外を見たら、戦争が始まっていた。空が燃えていた」

英語で詞を書く理由

当時の彼女は、キーウのすぐ北にある小さな町に家を借りて住んでいた。後にロシア兵による住民虐殺の舞台となったブチャやイルピンからもそう遠くない場所だ。彼女は弟と一緒に実家へ戻り、両親にも避難を勧めたが断られた。

やむなく、弟と2人で西部の国境に向かった。軍務に耐える年齢の男性の出国は既に禁じられていたので、弟は国を離れられなかった。でも女性のヘイルはOK。楽器を抱え、徒歩で国境を越えてルーマニアに避難した。

「戦争が始まって最初に書いたのは『プーチン帰れ』という曲だった」と、彼女は言う。

本当は地元のサッカーファンが敵に浴びせる卑猥な言葉を使いたかったが、「ヨーロッパでも歌えるように、ちょっと上品な表現に変えた。歌詞を英語で書いたのも、世界中の人に聴いてもらい、ロシアが私の母国でやっていることを知ってほしいから」

対談
為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 セカンドキャリアの前に「考えるべき」こととは?
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ユーロ相場が安定し経済に悪影響与えないよう望む=E

ビジネス

米製薬メルク、肺疾患治療薬の英ベローナを買収 10

ワールド

トランプ氏のモスクワ爆撃発言報道、ロシア大統領府「

ワールド

ロシアが無人機728機でウクライナ攻撃、米の兵器追
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 5
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 6
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 7
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 8
    自由都市・香港から抗議の声が消えた...入港した中国…
  • 9
    人種から体型、言語まで...実は『ハリー・ポッター』…
  • 10
    「けしからん」の応酬が参政党躍進の主因に? 既成…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中