最新記事

トルコ

怒れるエルドアン、その真の標的は──根幹にある「アメリカ不信」

Turkey’s Real Problem

2023年1月31日(火)12時20分
ハリル・カラベリ(中央アジア・コーカサス研究所上級研究員)
抗議デモ

スウェーデンの首都ストックホルムで行われた抗議デモでは、参加者がトルコのエルドアン大統領の写真を踏み付ける場面も(1月21日) CHRISTINE OLSSONーTT NEWS AGENCYーREUTERS

<NATO加盟申請のスウェーデンと関係悪化、だが本当の狙いはアメリカのクルド支援にある>

大統領はほえていた。1月23日、トルコ大統領のレジェップ・タイップ・エルドアンはスウェーデンを強い口調で非難した。

エルドアンに言わせれば、NATO加盟を希望しているスウェーデンは、加盟国であるトルコからのいかなる支援も期待すべきではない。なぜならスウェーデンは「イスラム教とトルコ人の信仰に敬意を払う」ことを怠り、イスラム教の聖典コーランを燃やす行為を許し、「テロ組織が好き放題に動く」ことを認めているからだ。

これに先立つ21日には、トルコのフルシ・アカル国防相がスウェーデン国防相との会談を中止した。アカルはスウェーデンで起きた「醜い活動」をその理由に挙げていた。

「醜い活動」とは、1月に入ってスウェーデンで起きたいくつかの出来事のことだ。11日には首都ストックホルムで、左派の活動家がエルドアンの人形を逆さづりにする抗議活動を行った。

21日にはある極右活動家が警察の許可を取った上で、トルコ大使館付近で抗議活動を行い、コーランを燃やした。同じ日に左派活動家のグループは、反トルコの抗議活動を実施。トルコの非合法武装組織「クルド労働者党(PKK)」の旗を掲げ、スウェーデンのNATO加盟反対を訴えた。デモ参加者はPKKの旗を掲げ、「われわれは、皆PKKだ」と書かれた横断幕を掲げた。

EUやアメリカ、スウェーデンは、PKKをテロ組織として認定している。だがスウェーデンはPKKの活動家を支援し、大物政治家たちもその立場を支持してきた。ペーター・フルトクビスト前国防相は2011年、PKKの「創設祝い」に参加した。

それでもスウェーデンはNATO加盟を目指す上で、PKKとのつながりを断つことと、国内でのPKKの活動を禁止するよう法改正を行うことを約束していた。保守派の新政権はトルコの信頼を得るために、シリアのクルド人民兵組織「クルド人民防衛隊(YPG)」と、その政治組織「クルド民主統一党(PYD)」と距離を置くと表明した。

ウルフ・クリスターソン首相はエルドアンの人形逆さづりの抗議活動について、スウェーデンのNATO加盟を「妨害する行為」だと非難。コーランを燃やしたのも違法ではないが、「極めて無礼」だと批判した。

根幹にあるアメリカ不信

だがエルドアンは声明の中で、スウェーデンで反トルコ・反イスラム感情が収まらない限り、トルコ政府は議会に対してスウェーデンのNATO加盟の批准を要請することはないと述べた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

次期米大統領専用機、納入再び遅延 当初予定から4年

ワールド

米南方軍司令官が退任、「麻薬密輸船」攻撃巡りヘグセ

ビジネス

日経平均は反落で寄り付く、米ハイテク株安を嫌気 5

ワールド

NATO事務総長の戦争準備発言は「無責任」、ロシア
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中