グリーンエネルギーのムラを補い世界で稼働? 電力を位置エネルギーに変換する「重力バッテリー」実用化へ 

2023年1月27日(金)18時10分
青葉やまと

グリーンエネルギーの普及で蓄電手段の開発が急がれる

重力バッテリーなど大容量エネルギーの保存技術は、近年急速に普及が進むグリーンエネルギーを受け、開発が急がれるようになってきた。

太陽光発電や風力発電などに代表されるグリーンエネルギーは、環境に優しいサステイナブルな電力として注目される一方、供給の安定性に課題が指摘されている。余剰電力を蓄積しておける重力バッテリーは、こうした不安定な発電方法と非常に相性が良い。

大量の電力を蓄電する手法としては重力バッテリーのほか、リチウムイオン電池や空気鉄電池による手法も検討されている。空気鉄電池とは、鉄を酸化させたり、その逆に酸素を除去して還元することで、繰り返し使用できるバッテリーの機能を持たせたものだ。リチウムイオン電池よりも安価に大量の電力を保持できるとして研究が進んでいる。

重力バッテリーには、自己放電しない利点がある。高い位置に引き上げた重量体を保管しておくだけで、位置エネルギーが確実に保存される。IIASAは、数週間から数年という単位でエネルギーを保存可能だと述べている。

また、化学電池は使用に伴って劣化が進み、蓄電可能な最大容量が低下してゆく。ある時点でバッテリー全体の交換が必要だ。これに対して重力バッテリーは劣化のおそれがなく、仮にメンテナンスが必要だとしても、故障した機械部品を交換する程度だ。グラビトリシティ社はBBCに対し、長期的なランニングコストを抑えることができると説明している。

>>■■【動画】閉鎖された鉱山を、巨大な蓄電設備として再活用する「重力バッテリー」

広く普及する揚水発電も、おなじく位置エネルギーを利用

位置エネルギーを利用した蓄電手法には、すでに広く実用化されているものもある。その代表例が揚水発電だ。高低差のある2箇所にダムを築き、水を両者のあいだで移動させる。夜間などに上部ダムへ汲み上げることで位置エネルギーを蓄積し、日中の電力消費のピーク時にタービンを通じて下部ダムへと放水して発電する。

BBCによると、現時点で世界の大容量エネルギー保存施設の容量うち、90%以上を揚水発電が占めている。ただし同記事によると、急峻な斜面かつ水量の豊富な地点に建設する必要があり地形条件が厳しいことや、莫大な資本を投じても完成に至らない例があるなど課題も多い。

重力バッテリーも位置エネルギーを活用する視点は同じだが、新たにダムなど巨大なインフラを建設しなくてよいメリットがある。蓄電設備の主要部分を地下に設けることができるため、景観への影響も最小限に抑えることができるとされている。

一方で課題として、安全面で入念な確認が求められる。重量物の保管に廃坑が耐えるか、そして浸水がないかなど、使用停止後の坑道を再開するには一定のハードルがあるようだ。

今後の研究しだいでは、グリーンエネルギーを安定化させる相棒として、重力バッテリーが世界で稼働するようになるかもしれない。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

英、国民保健サービスの医薬品支出20億ドル増額へ 

ビジネス

補正予算案が衆院通過、16日にも成立見通し 国民・

ワールド

アングル:日銀会合後の円相場、金利反応が焦点に 相

ワールド

焦点:高まる米金融政策の不透明感、インフレ・FRB
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 4
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 8
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 9
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中