「あなただけではない...」不安症、親の育て方が大きく関係──治療の最前線

THE ANXIETY EPIDEMIC

2022年12月23日(金)14時47分
ダン・ハーリー(サイエンスライター)
不安症のイメージ

PAULA DANIËLSE/GETTY IMAGES

<自分の不安と正しく向き合うことから本当の治療が始まる>

アンジー・ランデロスの娘は幼い頃から内気だった。「とてもシャイだった。同年代の子供たちと話しながら、いつも気まずそうだった」

2020年3月、新型コロナウイルスのパンデミックに伴いロックダウン(都市封鎖)が始まった。当時10歳だった彼女は、ズームの授業でパソコンの画面に映る自分の姿を見て、どうしようもないほど恥ずかしがった。

登校が一部再開されると、学校に行くのを嫌がる日もあった。車の中でひどいパニック発作を起こし、足を蹴り上げて大声で叫んだことも。別の日は「私たちから隠れようと家の外に駆けていった」。

ランデロスと夫のマイケル・ブロックはエール大学児童研究所の精神科医でもあり、娘が社会不安症に苦しんでいることを知っていた。彼女だけではない。米国勢調査局の全国調査によると、不安や鬱の症状をほぼ毎日訴えるのは、成人では19年の11%から21年は41%に急増している。全米心理学会(APA)の調査では成人の10人に8人近くが、新型コロナが生活の大きなストレスになっていると回答している。

不安をあおる社会問題は、パンデミックだけではない。医学誌ランセットに掲載された国際的な調査では、気候変動について若者の59%が「とても不安」または「非常に不安」を感じている。学校での銃乱射事件については、ピュー・リサーチセンターの調査でティーンエージャーの57%、親世代の63%が「やや不安」または「非常に不安」を感じている。

20年の米大統領選挙は、APAの調査によれば、アメリカの成人の3分の2にとって「大きな」ストレス源になった(16年の選挙について同様の回答をした人は2分の1強)。今年3月にハリス社が実施した調査では、経済はアメリカ人の87%にとって大きなストレス源であり、ロシアのウクライナ侵攻はアメリカの成人の80%にストレスを与えている。

不安が社会に広まり、多くの人々の心身に明らかな影響を与えている。そこで、プライマリーケア(一次医療)と予防医学の専門家から成る米政府の独立機関、予防医学作業部会(USPSTF)は今年9月に発表した提言で、65歳未満の全ての成人が不安症のスクリーニング検査を受けることを推奨している。実現すれば、多くの人が切実に必要としている治療を受けやすくなるだろう。

大きな不安を抱えていると公言する著名人の存在は、偏見を和らげているかもしれない。ポップシンガーのショーン・メンデスは今年7月、深刻なメンタルヘルスの問題を公表し、ワールドツアーをキャンセルした。9月にやはりツアーを中断したジャスティン・ビーバーは、20年近い不安発作との闘いを明かしている。テレビ司会者のオプラ・ウィンフリーは、多忙な仕事のストレスから神経衰弱になったと語っている。

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