最新記事

中国

生きているうちにこの言葉を聞くとは...中国・反政府デモで、天安門の悪夢が蘇る

The Crackdown Begins

2022年12月8日(木)17時00分
フォーリン・ポリシー誌特派員(安全のために匿名)
抗議者たち

政府に対する抗議や表現の自由の象徴として白い紙を掲げる抗議者たち(11月27日、北京) THOMAS PETERーREUTERS

<中国各地に突然広がった学生たちによる抗議活動。静観から暴力へ豹変した当局の混乱ぶりを目の前で見た若者が生々しく語る>

中国が騒乱に揺れている。その規模は過去数十年間で最大だ。11月最後の週末以降、国内各地の多くの都市で、憤る市民が政府の新型コロナ対策への抗議デモを繰り広げた。いくつかの地域、特に主要都市では、矛先は一党支配体制を敷く中国共産党にも向かっている。

「新型コロナ検査は要らない。自由が欲しい」「習近平(シー・チンピン)は退陣せよ」──。首都・北京や上海、成都、広州では、市民数百人が花やろうそく、言論統制への抵抗の象徴である白い紙を手にしてそう訴え、長らく抑え込まれてきた当局への不満を堂々と表明した。面食らった警察は対応をめぐって混乱状態だったが、今や可能な手段を総動員して、再発防止に躍起になっている。

【動画】目を疑う、「習近平」名指しの歴史的反政府デモ

一連のデモのきっかけは、11月24日に新疆ウイグル自治区の区都ウルムチの集合住宅で発生し、10人が死亡した火災だ。新疆では数カ月前から厳しい外出禁止措置が断続的に実施されており、ゼロコロナ政策のせいで救助が妨げられ、住人が逃げ遅れたのではないかとの臆測が広がった。

今回ほどの規模の抗議活動は中国では珍しい。習が国家主席に就任してからは特にそうだ。習政権の下では、治安が共産党の最優先事項に据えられ、反体制派は監視を受けるばかりか、投獄されることもしばしばだ。

上海では、11月26日夜に市内のウルムチ通り(新疆の区都にちなんだ名称だ)で開かれた火災犠牲者の追悼集会が、抗議デモに発展した。

「すごくシュールだった」。27日未明、集会に参加した同市在住のジュリアナ(27)はそう振り返る。「1カ月前に、上海で抗議活動が行われると聞いたら、そんなことはあり得ないと思っていたはずだ」

「本当に衝撃的だった」と、別の参加者のサブリナは語る。「生きているうちに『習近平は退陣せよ』という言葉を聞くとは考えもしなかった」

話を聞いたデモ参加者(当局の弾圧を避けるため、全員が匿名を希望)は、その場にいたのは若者が大半だったと証言する。激戦状態の就職戦線や受験競争のストレスにまみれている世代だ。

彼ら若年層の間では2年ほど前から、競争を離脱して最低限の生活でよしとする「躺平(タンピン)」や、頑張るより諦めるほうがましだという「擺爛(バイラン)」が合言葉になりつつある。その一方で、国外移住を目指す動きも加速している。

追悼集会から自然発生

上海のデモは自然発生的で、当初はとても平和的だったと、参加者らは言う。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米財務長官、ロシア凍結資産活用の前倒し提起へ 来週

ビジネス

マスク氏報酬と登記移転巡る株主投票、容易でない─テ

ビジネス

ブラックロック、AI投資で各国と協議 民間誘致も=

ビジネス

独VW、仏ルノーとの廉価版EV共同開発協議から撤退
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 2

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 3

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 4

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 7

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「香りを嗅ぐだけで血管が若返る」毎朝のコーヒーに…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中