最新記事

カタールW杯

パレスチナ解放はOKでイランデモ支持はNG 政治行動禁止のW杯「カタールは二枚舌」との声も

2022年12月6日(火)20時50分
パレスチナの旗を身に着けたサッカーファン

政治的な横断幕の掲示は、どういう場合なら許され、どういう場合なら許されないのか──カタール開催のサッカーW杯において、その答えはもっぱら政治的メッセージの内容に依存するようだ。写真は12月1日、ドーハのスタジアム前でパレスチナの旗を身に着けたサッカーファン(2022年 ロイター/Charlotte Bruneau)

政治的な横断幕の掲示は、どういう場合なら許され、どういう場合なら許されないのか──カタール開催のサッカー・ワールドカップ(W杯)において、その答えはもっぱら政治的メッセージの内容に依存するようだ。ファンからは、開催国による国際サッカー連盟(FIFA)のルール運用には一貫性が欠けていると批判の声が上がっている。

中東初開催となる今回のW杯だが、不安定な同地域でのトラブルと無縁とは言いがたい。その背景には、イランでの反政府デモや、イスラエル・パレスチナ間の衝突激化がある。

ところが、11月30日に行われたアルゼンチン対ポーランドの試合前に「パレスチナ解放」Tシャツを配る人々さえ見られるなど、パレスチナ支持を表明することが許される一方で、イランにおける聖職者支配の終わりを求めるデモへの支持を訴えようとしたサッカーファンらについては、治安当局は取り締まりを行った。

アルスママ競技場の周囲では、こうした対比が露骨に示された。12月1日、モロッコ対カナダの試合を控えて、パレスチナ支持を表明する旗、帽子、スカーフを身につけた数百人のファンは警備員の誘導を受けていた。

だがその2日前の夜、同じスタジアムでは、イラン対米国の大一番を前に、警備員はイランでの抗議行動への支持を示すものを没収し、Tシャツを脱ぎ、一部の旗を手放すよう強要した。

イランが1─0で敗れ、観衆がスタジアムを後にする中、ロイターの記者らは、警備員が活動家のシャツを着た男性らをスタジアム内で追いかけ、イラン反政府抗議行動における「女性、命、自由」というスローガンを叫ぶ1人を地面に押し倒すのを目撃した。

試合に先立ち、FIFAの人権担当部門は、それ以前のイランの試合における処遇に不服を唱えたファンにメールを送り、「女性、命、自由」や、マフサ・アミニさんの名前や肖像画をスタジアムで掲げることは認められると表明した。アミニさんは、イラン警察による拘束中に亡くなり、抗議行動のきっかけとなった女性だ。

ロイターでもそのメールの文面を確認した。

カタールのW杯組織委員会は、「治安当局は対立を和らげ、平穏を回復するために介入した」と述べた。カタール政府のメディアオフィスにコメントを求めたが、回答は得られなかった。

サッカーファンにとっては「現実問題」

ファンはダブルスタンダード(二重基準)だと感じているが、アナリストによれば、こうしたアプローチはカタールにとっての政治的な優先順位を反映している。カタールは権威主義的な政府を擁する保守的なイスラム国家だが、長年に渡り、外交面では難しい綱渡りを続けてきた。

カタールは外交政策として、イランとの良好な関係を構築する一方で中東最大の米軍基地を受け入れ、パレスチナのイスラム組織ハマスを受け入れつつ、かつてはイスラエルと一定の貿易関係を持ち、今回のW杯に向けて、イスラエルからドーハへの直行便を初めて許可した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

香港火災の死者128人に、約200人が依然不明 報

ビジネス

仏GDP、第3四半期確報は前期比+0.5% 速報値

ワールド

東南アジアの洪水、死者183人に 救助・復旧活動急

ビジネス

電気・ガス代支援と暫定税率廃止、消費者物価0.7ポ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 7
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 8
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中