最新記事

ツイッター

「この鳥は今や自由だ」と言うイーロン・マスクの「監視評議会」に願うこと

2022年11月15日(火)10時55分
ピーター・シンガー(米プリンストン大学生命倫理学教授)
イーロン・マスク、ツイッター

イーロン・マスクのツイッターはどこへ行く? PHOTO ILLUSTRATION BY MUHAMMED SELIM KORKUTATA-ANADOLU AGENCY/GETTY IMAGES

<「絶対的な言論の自由」を自称するマスクは、全従業員の約半数を解雇した。掲げる目標は立派だが、このままでは「健全な」議論を促進することはできない>

8500万の国民にはツイッターの使用を禁じておきながら、自分は好き勝手にツイートして女性を侮蔑するメッセージを発信し、小説『悪魔の詩』の著者サルマン・ラシュディに対する残虐な襲撃を美化している男がいる。

公共の場で自分の美しい髪を見せたいと願う若い女性たちを平然と殺している国、イスラム共和国イランの最高指導者アリ・ハメネイだ。

許せない、こんな男はツイッターから永久追放しろ。イラン系アメリカ人の活動家マシ・アリネジャドは何年も前から、そう要求してきた。実に頼もしい女性だ。

実際、イランの最高指導者に反旗を翻すには勇気が要る。この8月にはラシュディが、ニューヨーク州で襲撃されて重傷を負った。

ラシュディは1989年に、『悪魔の詩』をイスラムの教えに対する冒瀆と認定され、ハメネイの前任者であるホメイニから死刑宣告のファトワ(宗教令)を出されていた。

さて、そのツイッターをイーロン・マスクが買収した。ハメネイをツイッターから締め出したい人々は、当然のことながらマスクの出方を注視している。

マスクはツイッターの広告主に宛てた公開書簡に、自分がツイッターを買収したのは「文明社会の未来にとって、多様な信念を健全な態度で、暴力に頼らず議論できる共通のデジタル広場の存在は重要」と思うからだと書いた。

それを守れなければソーシャルメディア上の対話は「極右と極左の意見に分かれ、それぞれが増幅されて憎悪を生み出し、社会を分裂させる」ことになると警告してもいる。

そういう懸念は理解できる。自分の気に入らない主張を掲げる人を片っ端から攻撃するような議論は好ましくない。必要なのは見解の相違を超えた真の対話だ。

しかし問題は、それをどうやって実現するか。

ツイッターには毎秒6000件の投稿がアップされている。そんなに膨大な数の投稿をチェックするには、いくら人手があっても足りないだろう(それでもマスクは全従業員の約半数の解雇に踏み切った)。

人工知能(AI)で補えればいいが、あいにく今のAIでは「議論に有意な貢献をするツイート」と「憎悪や分断を促すだけのツイート」を的確に判別できない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中