最新記事

ウクライナ情勢

プーチンも困っている、コントロールの効かない国内強硬派──分岐点は動員令だった

Why Putin Is Escalating the Bombings

2022年10月26日(水)12時15分
ラビ・アグラワル(フォーリン・ポリシー誌編集長)

――つまりロシアには、プーチンの戦争に抗議する人々と、もっとやれと言い募る極右の強硬派がいるわけだ。そして今は、強硬派の影響力が強まっているようだ。なぜ、そうなってしまったのか。

実際、プーチンは難しい舵取りを強いられている。戦争反対の声と、もっとやれという意見の板挟みになっている。ご指摘のように、戦争反対の人はたくさんいる。動員令を出したことで、より多くのロシア人家庭に戦争の現実が持ち込まれた。

プーチンは従来、ウクライナでの戦争が国民生活に影響を与えることはないと語り、国民を落ち着かせようと努力してきたが、動員令で全てが吹っ飛んだ。

一方、私が驚いたのは、国内メディアで最強硬派の声が堂々と流れていることだ。

国営テレビを見れば分かるが、その先頭に立っているのはチェチェン共和国のラムザン・カディロフ首長だ。民間軍事会社ワーグナー・グループを率いる政商エフゲニー・プリゴジンや、大統領経験者のドミトリー・メドベージェフもいる。彼らはプーチンに、勝つためには手段を選ぶなと迫っている。

――あなたが驚いたというのは意外だ。なぜ驚いたのか。

こうした過激な声は、制御するのが難しい。ひとたび解き放たれると、後は勝手に増殖し始めるからだ。

そういう過激派の存在自体は、別に驚きではない。プーチンは従来、そういう主張から距離を置くことで、自分は(それなりに)理性的な指導者だという見せ方をしてきた。そこまでは想定の範囲内だ。

しかし私を驚かせたのは、彼らが堂々と発言を続けている事実、そして彼らがアクセルを踏み続けているように思える点だ。

そうした過激な主張が一段と高まって、プーチンとしてもロシア社会に根強く残る(民族主義的な)強硬派をなだめるため、作戦の変更を余儀なくされた。10月10日以後の都市部への猛攻は、そのように理解すべきだと思う。

――この戦争は高くつきすぎて、さすがのプーチンも権力維持が難しくなるという見方には同意するか。

私の思うに、プーチンは今も、自身の権力基盤は盤石だと信じている。一般論として、独裁的な人物は誇大妄想の持ち主だ。だからプーチンも、いろいろな手を使ってエリート層を分断し、複数の派閥を競わせてきた。

一方でセキュリティーサービスは自分に絶対忠誠を誓う人間で固め、国内メディアと情報環境もしっかり統制している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米Tモバイル、USセルラーの携帯事業買収へ 44億

ビジネス

独VW、低価格EV開発へ 中国勢に対抗 2万ユーロ

ワールド

台湾議会、政府を監視する権限強化する法案可決 市民

ワールド

西側兵器でロシア領攻撃なら世界紛争も、プーチン氏が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲームチェンジャーに?

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    メキシコに巨大な「緑の渦」が出現、その正体は?

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    汎用AIが特化型モデルを不要に=サム・アルトマン氏…

  • 6

    プーチンの天然ガス戦略が裏目で売り先が枯渇! 欧…

  • 7

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 8

    なぜ「クアッド」はグダグダになってしまったのか?

  • 9

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 10

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 5

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 6

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 7

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 8

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 9

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 10

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中