最新記事

漫画

韓国当局、大統領批判の漫画「きかんしゃユン・ソクヨル号」に激怒 展示した国際漫画祭の支援取消へ

2022年10月6日(木)21時41分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

政界、さらに渦中のユン大統領の反応は?

こうした政府当局の対応を受けて問題は国政監査の審議中の国会へと飛び火した。

4日、国会で行われた最高裁判所などに対する法制司法委員会の国政監査で野党の朴範界(パク・ボムゲ)共に民主党議員は「ユン・ソクヨル号」の漫画を提示し「国民には大統領を象徴的に表現する自由がある。裁判所行政所長の意見はどうか」と尋ねた。キム・サンフヮン裁判所行政処長は「この絵だけを見た場合は、国家権力に対する国民の苦痛の批判の批評、表現の自由に含まれる可能性があるのではないかという考えを持っています」と答えた。

これに対して、与党のユ・サンボム国民の力議員は、海外の漫画を例に挙げ、盗作疑惑という意見を加えた。ユ議員は「右にいるのが2019年、ボリス・ジョンソン英国首相を批判した漫画だ。左が漫画祭金賞を受賞したという高校生作品だ。一目で見ても盗作ではないか。本質的なのは、学生が剽窃をしたことだ」と主張した。

これにグォン・チルスン民主党議員は、文化体育観光部の資料を引用して「政治的な問題を露骨に扱った作品を選定したのは学生の漫画創作欲求を鼓吹しようとする行事の趣旨に反するために警告するとなっている。盗作という単語自体ない」と指摘。

またキム・ナムグク共に民主党議員は「この漫画が盗作かどうかチェックするなら、大学の学問の自由と道徳的権威を失墜させたキム・ゴンヒ大統領夫人の論文盗作疑惑について議論すべきだ」と反論。キ・ドンミン共に民主党議員も、キム・ゴンヒ夫人の論文盗作疑惑に言及し「高校生については厳格な盗作の基準を適用して、権力者の妻に対しては寛大というのは限りなく慣用的な態度だ」と叱咤した。

こうした国会などの熱い反応をよそに渦中の大統領府とユン大統領はいたって、冷静な受け止め方をしているようだ。

大統領府は定例会見でこの問題について問われ「関連省庁がすでに対応したなら、それを参考にしてほしい」と回答。また、ユン大統領も6日のぶら下がり会見で一連の問題について問われて「そのような問題は大統領が言及するものではないと思う」として、これ以上問題が炎上するのを避けた形となった。

しかし、今回の文化体育観光部の対応については、漫画関連団体が反発しており、社団法人ウェブトゥーン協会が「憲法の基本権の一つである表現の自由を否定している」と批判する声明を発表したほか、全国時事漫画協会も「自由!」という単語だけ33回繰り返す形で声明を出した。さらに、私たちの漫画連帯、韓国マンガ協会なども声明を準備しているという。

こうした漫画界の反応はかつて、朴槿惠(パク・クネ)大統領時代に反政権的な文化関係者のブラックリストが作成され、メジャーな発表の場から追いやられたという忌まわしい記憶があるからだ。こうした一連の反応を見る限り、「ユン・ソクヨル号」というひとコマの漫画は、現代韓国の抱える問題を見事にあぶり出したと言えるだろう。

■【動画】「きかんしゃユン・ソクヨル号」を見る

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

韓国外貨準備、4月は19カ月ぶり大幅減少 介入で

ビジネス

テスラがソフトウエアやサービスなどの部門でレイオフ

ワールド

ヨルダン国王、イスラエルのラファ侵攻回避訴え 米大

ビジネス

米商工業と家計の借り入れ需要減退=FRB融資担当者
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 2

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    メーガン妃を熱心に売り込むヘンリー王子の「マネー…

  • 7

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 10

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中