最新記事

日本政治

安倍晋三は必ずしも人気のある指導者ではなかった(伝記著者トバイアス・ハリス)

CONTROVERSIAL TO THE END

2022年9月27日(火)17時50分
トバイアス・ハリス(米シンクタンク「アメリカ進歩センター」上級フェロー)

221004p18_TBS_02.jpg

2002年に小泉首相の訪朝に同行し、北朝鮮に日本人拉致を認めさせた ERIKO SUGITA-REUTERS

安倍は、このビジョンの追求が必ずしも国民に支持されるとは思っていなかった。しかし、それでも変化の必要性を信じて突き進んだ。

2006年の著書『美しい国へ』(文春新書)の序文で、彼は政治の世界を、どんな批判を受けても自分の信念を貫く政治家と、そうでない政治家に分けている。当然、自分は前者と考えており、マスコミや学界、野党、官僚、さらには自民党内の戦後レジーム擁護派と闘う覚悟でいた。

2002年に小泉純一郎首相を促して北朝鮮に行かせ、当時の金正日(キム・ジョンイル)総書記から日本人拉致被害者についての情報を引き出した。第2次政権ではアベノミクスを打ち出し、世界の注目を集めた。

それで人気が高まった時期もあるが、たいていの場合、安倍に対する評価は二分されていた。

自民党の保守系若手議員は安倍に強い忠誠心を抱き、2007年に彼が健康上の理由で辞任した後も忠誠を誓い続けた。その多くは波瀾万丈の第2次政権も支えた。

しかし安倍に反発する人々の敵対心も激しかった。まるで独裁者だという非難は絶えず、一部の政策に関しては大規模な抗議行動が繰り返された。

実際、第2次安倍政権に対する国民の支持は、お世辞にも熱烈とは言えなかった。野党よりは自民党のほうがましだと思い、自民党政権のもたらす安定を買っていたにすぎず、むしろ国民の過半数は安倍の進める政策を嫌い、政権末期に浮上した一連の疑惑に愛想を尽かしていた。

「国葬反対」が意味するもの

安倍の率いる連立与党が2012年、2014年、2017年の総選挙を続けて制したのは事実だが、これら選挙の投票率はいずれも戦後最低水準だった。安倍の率いる自民党は2012年の総選挙で政権復帰を果たしたが、そのときの得票数は惨敗に終わった2009年の総選挙より少なかった。安倍政権で最後の国政選挙は2019年の参院選だったが、このときの投票率は1995年以来初めて、50%を割り込んでいた。

つまり、安倍は選挙に勝ち続けたが、大多数の日本人に支持され、あるいは愛されていたとは言い難い。

いわゆる「戦後レジーム」とその象徴としての憲法が今も日本人に支持されているのか、あるいは安倍の強引で、時に独裁的な政治手法(数の力で押し切る議会運営や、批判に耳を貸さない姿勢)が嫌われたのかはともかく、安倍は決して人気のある指導者ではなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ドイツ情報機関、極右政党AfDを「過激派」に指定

ビジネス

ユーロ圏CPI、4月はサービス上昇でコア加速 6月

ワールド

ガザ支援の民間船舶に無人機攻撃、NGOはイスラエル

ワールド

香港警察、手配中の民主活動家の家族を逮捕
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中