最新記事

ロシア

ロシア人観光客、防空システムS-400の位置をうっかり漏洩 記念撮影で

2022年8月29日(月)17時10分
青葉やまと

無邪気な観光客の写真は、ロシアの軍事機密だった...... Defense of Ukraine-Twitter

<ご機嫌な水着姿の老紳士。その背後その後方に映り込んでいるは、ロシア軍のS-400「トリウームフ」対空防衛ミサイルだった......>

一枚の記念写真が、ロシアの軍事機密をウクライナ側に暴露する形となった。

ロシアによって強制的に併合されたクリミア半島には、ロシア人観光客に人気の観光スポットが点在する。そのひとつ、エフパトリアの街の郊外を訪れた男性観光客が、図らずもロシア軍の対空防衛システムの所在地を明かすこととなった。

男性は砂地に立ち、カメラに向かってリラックスした様子でポーズを決めている。ほぼ全裸に水着一枚という出立ちで、観光を満喫している様子がうかがえる。だが、その後方に映り込んでいるは、ロシア軍のS-400「トリウームフ」対空防衛ミサイルだ。

S-400は、S-300の後継として2007年ごろからロシア軍に配備されており、同時に複数の目標を攻撃可能な超長距離地対空システムとなっている。ロシア側の防空を担っているが、配備先が判明すれば攻撃を受けるおそれがある。例えばウクライナ側は8月22日、写真とは別のウクライナ南部で、S-400および自走式榴弾砲などを空爆で破壊したと発表している。

このため位置は秘匿したいところだが、無邪気なひとりの観光客により、機密情報が漏れてしまったようだ。観光客男性が自身のソーシャルメディアに記念写真をアップロードすると、瞬く間に注目を集める結果となった。Twitterユーザーたちは写真から詳細な位置を特定し、所在地をツイートしている。

ウクライナ国防省は写真を添え、Twitterに次のように投稿した。「われわれはロシア人観光客を冷遇しすぎていたかもしれない......。時として彼らは本当に役に立ってくれる。占領地クリミアのエフパトリア近郊で、ロシア防空システムの所在地で写真を撮ったこの男のように。ありがとう、そしてこれからも貢献を!」


ヨーロッパ著名サイトの記者が検証

位置の特定に大きく寄与した人物のひとりが、ラジオ・フリー・ヨーロッパ記者のマーク・クルトフ氏だ。Twitterのスレッドを通じ、分析の軌跡を明かしている。

氏は観光客男性がアップロードしたほかの複数の写真を検証し、男性のスマホの位置情報が正確である裏付けをとった。あとは写真に付加されていた位置情報をもとに、別途撮影された航空写真など複数の写真を照合し、S-400が現地に存在することを確認したようだ。さらに、複数の日付で撮影された衛星写真をもとに、同地に配備されたタイミングを7月15日から22日までの1週間と特定している。

氏によると、当該地点の緯度経度は「45.181211, 33.211716」となっている。当該のポイントはクリミア半島南西部の海岸で、砂が堆積して海上に砂地が出現した砂嘴(さし)とみられる一帯だ。ウクライナ本土に近く、なおかつクリミア側の町から比較的遠い地帯を選んで配備されているようだ。

地元関係者によると、このS-400はほぼ毎日のように稼働しており、実際にロシアの防空網を支えている模様だ。だが、砂地にあまりにも堂々と配備されているため、位置は非常に検証しやすかった、とクルトフ記者は述べている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

豪GDP、第2四半期は前年比+1.8%に加速 約2

ビジネス

午前の日経平均は反落、連休明けの米株安引き継ぐ 円

ワールド

スウェーデンのクラーナ、米IPOで最大12億700

ワールド

西側国家のパレスチナ国家承認、「2国家解決」に道=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 5
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 10
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中