最新記事

中国

中国、スターリンク衛星の妨害手段を準備か 科学者が破壊の必要性を主張

2022年6月7日(火)20時07分
青葉やまと

ロケットから分離前のスターリンク衛星 Credit: SPACEX

<戦地でも活躍のスターリンク。潜在的な敵国は焦りをみせる>

中国の軍事産業に携わる科学者が、米スペースX社が展開する「スターリンク」衛星通信網について、監視・破壊手段を確保する必要があると主張している。中国の科学ジャーナル『モダン・ディフェンス・テクノロジー』に掲載された論文のなかで、同国の防衛技術研究者らが論じた。

論文は、米軍の軍事力をスターリンクが強力にサポートする可能性があると述べ、潜在的なリスクだと指摘した。中国として衛星の動きを監視する大規模な監視網を構築すべきだと提言している。さらに、スターリンク衛星を機能停止あるいは破壊する手段の必要性にも触れた。

論文を受け海外では、中国が今後そのような破壊兵器を開発するとの見方や、すでに開発中の可能性すらあるとの観測が広がっている。米技術解説誌の『インタレスティング・エンジニアリング』は、『中国はイーロン・マスクのスターリンクを撃ち落とす兵器を開発している可能性がある』と報じた。

イーロン・マスク氏率いる米スペースX社が提供するスターリンクは、広域にインターネット通信を提供する衛星通信サービスだ。低高度の軌道に数千基の通信衛星を配備することで広域をカバーする。ロシアによる侵攻後、通信網が寸断されたウクライナでも、民間・軍事の両用途で活用されるようになった。

現在、北米、南米の一部、ヨーロッパの一部、オーストラリアなど17ヶ国でベータ版サービスを展開しており、日本でも2022年内の提供開始を予定している。

アメリカ軍の能力向上を警戒

渦中の論文は、北京追跡通信技術研究所のレン・ユアンゼン研究員らが著したものだ。同研究所は、中国人民解放軍・戦略支援部隊の傘下にある。

レン氏らは論文のなかで、「スターリンク衛星網が完成した暁には、偵察、誘導、気象観測装置などを搭載することで、偵察用リモート・センシング、通信の中継、誘導と配備、攻撃と武力衝突、宇宙防衛などの領域における米軍の戦闘能力をいっそう高めることが可能である」との認識を示した。

また、米軍のドローンおよびステルス機がスターリンク経由の通信に対応した場合、現状の100倍のデータ通信速度を達成可能だと推定している。

レン氏らは既存の通信網だけでなく、技術協力にも懸念を示す。スペースX社はすでにスターリンクをベースとした近代的システム開発で、米国防総省と協力契約を締結している。マッハ5を超える極超音速機の検知・追跡技術の開発などが想定される。

論文は、スターリンクが前例のない規模と複雑性、そして柔軟さを備えているとして警戒している。中国軍も衛星を対象とした新たな対抗措置を開発する必要があるとの主張だ。

なお、本件を報じた香港のサウスチャイナ・モーニングポスト紙は論文の内容について、中国軍あるいは政府の公式な見解を反映したものであるか否かは確認できなかったとの注釈を加えている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中