最新記事

日本政治

日本に避難した20代ウクライナ女性が「新戦力」に 都内のロシアンパブ大盛況が突きつける課題

2022年6月22日(水)11時29分
元木昌彦(ジャーナリスト) *PRESIDENT Onlineからの転載

だが、難民に冷酷なこの国で、難民認定を受けることは至難である。

2021年3月にスリランカ人のウィシュマ・サンダマリさんが名古屋入管で死亡した事件(遺族が国に対して約1億5600万円の損害賠償を求めた訴訟が6月8日、名古屋地裁で始まった)を追及している志葉玲氏は、『難民鎖国ニッポン』(かもがわ出版)の中で、

「『法の守護者』であるはずの法務省の外局、出入国在留管理庁(入管)は、本来は助けるべき存在である難民を難民として認めず、また、日本人と結婚していたり、家族が日本にいる等、この国での在留を望む外国人に対しても在留資格を与えず、こうした人々を収容施設に無期限で長期拘束(収容)している」

日本の認定率は限りなくゼロに近い

「その中でウィシュマさんを含め、1997年以降、現在までに20人以上の人々が入管施設内で医療の不備や自殺などで命を落とし、数え切れないくらい多くの人々が、心や身体に大きなダメージを負わされている。日本の入管行政の非人道性は、弁護士会や人権団体等が指摘し、国連の人権関連の各委員会からも改善するよう、幾度も勧告されてきた」

日本は難民という定義を極めて狭くすることで、ほとんどの難民を拒絶してきた。難民申請をした人がどれだけ受け入れられたかという割合を示す「難民庇護申請認定率」というのがある。

難民を助ける会会長で立教大学教授の長有紀枝氏がビデオニュースで語ったところでは、2020年の日本の認定率は0.7%。カナダの75%、ドイツの52%、イギリスの22%、フランスの13%と比較しても、限りなくゼロに近いのである。

志葉氏が、なぜこうも少ないのかを法務省に問い合わせると、「地理的に遠い、言語の壁などの要因から、避難を余儀なくされている人々が多い国からの難民申請者が少ないためであって、日本が難民を拒絶しているわけではない」と回答したという。

「鎖国」と呼ばれる政策が変わるきっかけになるのか

しかし、志葉氏は現実は違うという。全国難民弁護団連絡会議のまとめによると、2006年~2018年の統計で、スリランカからの難民申請は7058人だが、認定率は0%。オーストラリアでは39.1%、カナダでは78.3%。

ネパールからの申請は8964人だが0%。アメリカは29.7%、カナダでは61.7%。多くの人が難民化しているミャンマー人、内戦から逃れてきたシリア人、ミャンマーで迫害を受けているロヒンギャ難民たちも当然ながら冷遇している。

日本政府が今回のウクライナから逃れてきた人たちを難民ではなく、避難民とした理由が見えてくるではないか。

難民に固く門戸を閉ざしてきたこの国が、ウクライナ避難民を受け入れたことで、「鎖国」とまでいわれる難民政策を世界標準まで引き上げることができるきっかけになるのか。

新潮の短い1本の記事は、そのことを日本政府と日本国民に問うている。私は、そのように読んだ。

元木昌彦

ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任する。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『編集者の教室』(徳間書店)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)、近著に『野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想』(現代書館)などがある。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg




今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、堅調な雇用統計受け下げ幅縮

ワールド

トランプ氏誕生日に軍事パレード、6月14日 陸軍2

ワールド

トランプ氏、ハーバード大の免税資格剥奪を再表明 民
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単に作れる...カギを握る「2時間」の使い方
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中