最新記事

クーデター

ミャンマー軍政、著名な民主活動家ら死刑執行へ 1990年以来の事態に国連など非難

2022年6月7日(火)19時15分
大塚智彦
ヤンゴンの刑務所入り口に立つ刑務官

ヤンゴンの刑務所 REUTERS/Ann Wang

<武装市民組織らとの戦闘が長期化することへの軍政の焦りか──>

ミャンマーの裁判所は6月3日、著名な民主活動家や前国会議員の2人を含む4人に対し「死刑を執行する」ことを明らかにした。もし死刑が実行されるとミャンマーで司法判断に基づく死刑は1990年以来となる。

この判決に国連やアムネスティなどは批判を強め、死刑執行の停止を求める事態となっている。

ミャンマーの裁判所は2021年2月1日のクーデター以降、アウン・サン・スー・チー氏率いる民主政府を転覆した軍政の強い影響下にあり、公正・公平な裁判は不可能な状況となっている。

そんななか裁判所は前国会議員でスー・チー氏の政党「国民民主連盟(NLD)」の国会議員だったコー・ピョ・ゼヤ・ソー氏と民主活動家として著名なチョー・ミン・ユー(愛称コ・ジミー)氏をそれぞれ反テロリズム法違反容疑ですでに死刑判決を下していたが、今回軍政のゾー・ミン・トゥン国軍報道官が「2人を含む4人の死刑判決囚は刑務所の手続きに従って絞首刑に処せられる」と述べたことが明らかになった。

2人は判決を不服として上訴していたが、上級裁判所はこれを却下したことで、死刑判決が確定していた。

1990年以来初の執行か

現地からの報道などによると前述の2人のほか、中心都市ヤンゴンで軍政に情報提供していた女性を殺害した容疑で死刑判決を受けていた2人に対する死刑も執行される予定という。報道官は執行の日取りなどは明らかにしていない。

ミャンマーでは1990年以来司法判断に基づく死刑は執行されていない。クーデター以降軍政への反対運動や武装抵抗などで逮捕され、有罪判決で死刑を宣告された活動家などは既に数十人に上っているが、これまで執行された人はいなかったといわれている。

このため死刑執行の発表は、これまでのように「脅し」ではないかとの見方がある一方で、わざわざ国軍報道官が執行を明言したことから今回は実際に執行されるのではないかとの観測も有力だ。

もし4人の死刑が執行されたとすれば、民主勢力が軍に対抗するために組織した武装市民部隊「国民防衛隊(PDF)」や国境周辺地区の少数民族武装勢力との戦闘で軍が苦境に陥り、完全な治安回復が大幅に遅れていることへのミン・アウン・フライン国軍司令官ら軍政幹部の焦りの表れともいわれている。

軍政への抵抗の象徴とされる2人

今回軍政が死刑執行を明らかにした2人は反軍政運動、民主化運動の象徴とされる人物で、ミャンマー国内だけでなく国際的にも名前が知られた存在で、軍政はこの2人を「葬り去る」ことで反軍政運動家や武装市民組織メンバーに精神的なダメージを与えることを画策しているものとみられている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

東証がグロース市場の上場維持基準見直し、5年以内に

ビジネス

ニデック、有価証券報告書を提出 監査意見は不表明

ビジネス

セブン銀と伊藤忠が資本業務提携 ファミマにATM設

ワールド

トランプ氏、日韓の対米投資「前払い」 見解の相違と
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
2025年9月30日号(9/24発売)

トヨタ、楽天、総合商社、虎屋......名門経営大学院が日本企業を重視する理由

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週にたった1回の「抹茶」で入院することに...米女性を襲った突然の不調、抹茶に含まれる「危険な成分」とは?
  • 2
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、Appleはなぜ「未来の素材」の使用をやめたのか?
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 5
    クールジャパン戦略は破綻したのか
  • 6
    中国、ネット上の「敗北主義」を排除へ ――全国キャン…
  • 7
    【クイズ】ハーバード大学ではない...アメリカの「大…
  • 8
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...…
  • 9
    琥珀に閉じ込められた「昆虫の化石」を大量発見...1…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 1
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 2
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分かった驚きの中身
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 5
    【動画あり】トランプがチャールズ英国王の目の前で…
  • 6
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...…
  • 7
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 8
    「ミイラはエジプト」はもう古い?...「世界最古のミ…
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 10
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中