最新記事

米中関係

バイデンは中露分断のチャンスをふいにした

Is Biden Missing a Chance to Engage China?

2022年5月24日(火)19時33分
マイケル・ハーシュ(フォーリン・ポリシー誌上級特派員)

さらに中国を刺激する「クアッド」日米豪印の首脳たち(東京、5月24日) Yuichi Yamazaki/REUTERS

<ウクライナに軍事侵攻し、暴虐の限りを尽くす「パートナー」ロシアの暴挙に誰より困惑しているのが中国。東アジア歴訪で中国と敵対するメッセージばかり出す代わりに交渉を呼び掛ければ、関係改善に応じた可能性がある>

国際舞台におけるロシアのウラジーミル・プーチン大統領の無能ぶりに、中国の習近平国家主席ほど困惑している人物はいないだろう。習は表向きは今もプーチンの忠実なパートナーであり、中国の国営メディアはロシアによるウクライナ侵攻について、アメリカの挑発が原因だとするロシア政府の主張におおむね沿った報道を続けている。しかし中国は裏では、ロシアへの軍事支援を控え、経済・科学分野での一部の協力を保留にすることで、ロシアと距離を置きつつある。

習は今、深刻なプレッシャーに直面している。プーチンが自ら離脱しつつある国際的なシステムは、過去数十年にわたって中国に桁外れの富をもたらしてきたシステムでもあり、中国にとって、そのシステムの一員であり続けることはきわめて重要だからだ。

中国経済は、新型コロナウイルスの影響による厳しいロックダウンで大きな打撃を受けている。西側諸国との「デカップリング(分離)」により物資が不足しており、構造的な問題も抱えている。豪ロウイー国際政策研究所は、このままでは中国経済の(かつては目覚ましかった)成長率が、2050年までには年率平均2~3%と(中国の基準では)壊滅的な水準に落ち込みかねないと指摘する。またブルームバーグの新たな分析によれば、2022年のアメリカの経済成長率が、1976年以降で初めて、中国を上回る可能性がある。

国民の不満を抑えられない

オーストラリアのケビン・ラッド元首相は、ウォール・ストリート・ジャーナル誌への最近の寄稿の中で、習が「政策の方向性を劇的に転換させなければ、中国は世界の成長エンジンではなくなるだろう」と指摘した。そうなれば、習は政治的に大きな打撃を受けることになりかねない。習と中国共産党は、経済の急成長を実現し、またアメリカを追い抜くと約束することで、国民の不満を抑え込んできたからだ。

しかしジョー・バイデン米大統領は、方針転換を促すために中国の接近するつもりはないようだ。東アジアを歴訪中のバイデンは、複数の同盟国との会談を通して、中国に対して「同地域におけるアメリカのリーダーシップと関与強化」のメッセージを発信している。

バイデンはこの数日で、日本と韓国の首相と会談を行い、新たな経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」を発表した。サプライチェーンや税制改革、気候問題やデジタル技術での協力を約束することで、東アジアにおける貿易関係を復活させることを目指す定義の曖昧な取り組みだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

足元で一方的・急激な動きみられる=為替で片山財務相

ワールド

米主要3空港で航空便に遅延、管制官不足で 政府閉鎖

ワールド

米東部の州知事選、民主党候補が優位保てるか

ワールド

トランプ氏、難民受入上限を過去最低7500人に 主
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面に ロシア軍が8倍の主力部隊を投入
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 8
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 9
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 10
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」にSNS震撼、誰もが恐れる「その正体」とは?
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 10
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中