最新記事

経済危機

思いつきで政策連発して経済破綻──大統領一族がやりたい放題のスリランカ

INTO MORE TURBULENT WATERS

2022年5月13日(金)17時12分
スミット・ガングリー(インディアナ大学教授)
デモ

最大都市コロンボで行われたラジャパクサ大統領の退任を求めるデモ(4月22日)。スリランカは1948年の独立以来の経済危機に見舞われている BUDDHIKA WEERASINGHE/GETTY IMAGES

<港を中国に譲渡し、化学肥料と農薬を突然禁止するなど、政策はどれも行き当たりばったり。借金体質とコロナ禍でついにデフォルト、IMFが求める緊縮財政でさらなる打撃は必至か>

インド洋の真珠と呼ばれる島国スリランカ。その政府が対外債務の支払いを一時停止すると発表したのは4月12日のことだ。南アジアの国が事実上のデフォルト(債務不履行)宣言をするのは20年ぶりとなる。

現在のスリランカにはガソリンがない。食料がない。停電も頻繁に起きる。だが、この危機は、数十年にわたる無理な政策運営の結果だ。

しばらく前から国内各地では、スリランカ政治を牛耳るラジャパクサ家に対する大規模な抗議デモが起きていた。ゴタバヤ・ラジャパクサ大統領と兄のマヒンダ・ラジャパクサ首相(前大統領)も、このファミリーの一員だ。

だが、どんなに大衆の人気がなくても、与党勢力と軍の暗黙の支持を得ている2人が、権力の座を手放す気配はない。

スリランカは長年、借金頼みの成長モデルを実践してきた。この戦略は、1970年代から2000年代初めまでは総じて成功を収めた。

この間デフォルトに3回陥ったが、いつも迅速な債務再編で乗り切れた。低所得国として、IMFや世界銀行から極めて緩い条件で融資を受けることができたからだ。おかげで1973~2001年の経済成長率は年平均4.9%と力強いものだった。

ところが、19年に国際的な位置付けが低所得国から中所得国に引き上げられると、融資を取り付けるのが少しばかり難しくなった。それでも政府は、どうにか成長のポテンシャルを示すことで、高リターンを求める民間の投資家から資金を集めることができた。

その背景には、経済成長だけでなく国内の安定があった。スリランカは約30年にわたり激しい民族闘争に苦しんでいた。だが09年に政府側が確固たる勝利を収めたことで、平和の時代が到来した。内戦末期に政府軍による人権侵害があったとされるが、国内の安定は揺るがないとの見方が支配的だった。

スリランカに地政学的なポテンシャルを見いだす投資家もいた。中国がユーラシア大陸をまたぐインフラ整備構想「一帯一路」を発表すると、スリランカは「海のシルクロード」の中継地として注目を集めるようになった。実際、ラジャパクサ家の地元である南部ハンバントタには、中国の融資で深海港と国際空港の整備が進められることになった。

ところがスリランカは、身の丈を大幅に超えた融資の返済に窮することになる。17年には、債務を緩和してもらうのと引き換えに、ハンバントタ港の運営権を99年間中国国有企業に譲渡する羽目になった。空港の整備もストップした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中