最新記事

軍事

ウクライナのどさくさに紛れて「侵攻」を狙う、もうひとつの旧ソ連の国

THE OTHER EX-SOVIET HOTSPOT

2022年5月11日(水)17時06分
トム・オコナー(本誌中東担当)

さらに、アメリカはフランス、ロシアと共に、ナゴルノ・カラバフの和平を担う欧州安保協力機構(OSCE)ミンスク・グループの共同議長を務めてきた。その立場からも「引き続き、紛争の長期的な政治的解決を実現するために双方と協力するべく、深く関与していく」と、プライスは語った。

プーチンは3月31日にアリエフおよびアルメニアのニコル・パシニャン首相とそれぞれ電話で会談し、地域の安定について議論した。ロシア外務省も声明を発表し、「当事者に自制を求め、最高レベルで合意した現在の3国間協定を厳格に遵守するように求める」と述べている。

ウクライナとロシアが自分たちの戦いを、領土問題だけでなく文明の争いでもあると捉えているように、アルメニアの支援を受ける「アルツァフ共和国」も、自分たちを歴史上のもっと大きな争いの最前線と見なしている。

ウクライナとロシアはそれぞれ相手をファシズムと喧伝する戦略を取り、プーチンはウクライナの「脱ナチス化」のためとして戦争を正当化している。

14年にウクライナで親欧米政権が誕生したことを受けて、東部のドネツクとルハンスク(ルガンスク)の親ロシアの分離独立派が武装蜂起した際も、ロシアはウクライナがロシア系住民を標的にしていると非難した。

「アルツァフ共和国」のダビド・ババヤン外相は、アゼルバイジャンとトルコもナチスドイツのやり方に倣って、分離独立を主張しているアルツァフの領土からアルメニア系住民を追い出そうとしていると主張する。

「アゼルバイジャンはウクライナにおけるロシアの戦争を、この地域で自分たちの目標と計画を最大化する機会として利用している」。すなわち「汎テュルク系諸民族の帝国」の構築だ。

「アゼルバイジャンとカラバフの紛争は、文明社会に対する挑戦でもある」と、ババヤンは続ける。「ここに価値と価格、理想と利害のジレンマがある。アルツァフは破滅の危機に瀕し、ジェノサイド(集団虐殺)と存続の危機に直面したが、国際社会の適切な対応はなかった。『価値』より『価格』が、『理想』より『利害』が優先されるからだ」

「このジレンマの結果として侵略を容認された者が、実際に侵略する。こうしたやり方は遅かれ早かれ、堕落につながるか、さもなければ破壊があるのみだ」

ニューズウィーク日本版 ISSUES 2026
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月30日/2026年1月6号(12月23日発売)は「ISSUES 2026」特集。トランプの黄昏/中国AIに限界/米なきアジア安全保障/核使用の現実味/米ドルの賞味期限/WHO’S NEXT…2026年の世界を読む恒例の人気特集です

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・ウクライナ首脳会談、和平へ「かなり進展」 ドン

ビジネス

アングル:無人タクシー「災害時どうなる」、カリフォ

ワールド

中国軍、台湾周辺で「正義の使命」演習開始 実弾射撃

ビジネス

中国製リチウム電池需要、来年初めに失速へ 乗用車協
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    アメリカで肥満は減ったのに、なぜ糖尿病は増えてい…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中