最新記事

サイバー攻撃

ロシアのサイバー攻撃、ヨーロッパ全域の衛星モデムやドイツの風力発電2000基を監視不能に

2022年4月11日(月)18時00分
青葉やまと

ドイツの風力発電2000基が監視不能になっていた REUTERS/Wolfgang Rattay

<ロシアからとみられるサイバー攻撃を受け、ウクライナ周辺で衛星通信が遮断。発電施設の監視が行えないなど、現在も影響が続く>

ウクライナ侵攻当日、ロシア軍が米Viasat社の通信衛星網をハッキングしていた可能性があることがわかった。ロシアの軍事諜報機関「GRU」がサイバー攻撃を主導し、ウクライナおよび欧州で展開する衛星通信サービスを妨害したとみられる。

影響範囲はウクライナだけで数千件、その他ヨーロッパ地域を含めると数万件規模にのぼる。発電施設などの社会インフラや一般家庭など広い範囲で通信が断たれており、現在もヨーロッパの一部では重要施設の稼働状況の監視に支障が出ている。

この攻撃では、衛星通信の利用に必要な通信機器に対し、「ワイパー」と呼ばれるデータ消去ソフトが仕掛けられた。衛星本体は被害を免れたものの、企業や家庭などで衛星通信を利用するためのモデムが攻撃され、結果として数万ヶ所で衛星通信が利用できなくなっている。攻撃を受けたモデムとは、いわば通信回線とパソコンの間にある橋渡し役であり、通信に不可欠な装置だ。

Viasat社は同社モデムに対して更新ファイルを配布し、復旧を進めている。ただし米ZDネット誌によると、一部モデムはソフトウェアでの復旧が行えず、物理的な交換が必要になっている。Viasat社はリモートでの復旧作業と並行して、大量のモデムの配送手配を進めている。

英BBCは、本件がウクライナ侵攻に関連した「最も重大なサイバー攻撃」であり、軍と政府の通信にも影響を与えたと報じた。ウクライナ政府に対しては今年1月ごろから、悪意のあるソフトウェアを用いたサイバー攻撃が相次いでいる。ウクライナ侵攻に関連して仕掛けられたワイパーソフトは、本件を含めすでに7種類を数える。

現在も攻防続く 風力発電2000基が監視不能に

攻撃から1ヶ月以上が経過したいまも、ハッカーと衛星会社の攻防は続く。ロイターはViasat関係者の証言として、「ユーザーたちの通信を回復させようと米通信企業のViasat社が作業にあたる一方、ウクライナとヨーロッパ全域で数万台の衛星モデムを稼働不能にしたハッカーたちは、現在も同社を妨害する試みを続けている」と報じている。

攻撃以降、Viasat社はセキュリティを高めるべく、新たな防護措置を導入している。だが、ハッカーたちもこの防護網をかわそうと躍起だ。新たな攻撃を繰り出してはその効果を観察し、有効な一手を見定めている。

攻撃による影響は、ウクライナ国内に留まらない。WIRED誌イギリス版は、攻撃発生から1ヶ月が経ついまもドイツでは2000基の風車との通信が途絶え、発電状況を監視できない状態だと報じている。衛星通信はケーブルの敷設が難しい遠隔地の通信を支えており、回線の不通によって発電所を含む重要な社会インフラに支障が生じている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中