最新記事

朝鮮半島

日韓の関係修復は期待できず、多くの難題が待つ韓国「新大統領」の安全保障政策

2022年3月8日(火)17時47分
尹碩俊(ユン・ソクジュン、元韓国海軍大佐、韓国軍事問題研究員)
尹錫悦

尹(左)が勝利しても中国の軍拡や日韓関係など課題は山積み AP/AFLO

<3月9日の大統領で李在明と尹錫悦のどちらが勝利しても、北朝鮮や中国への対処、米韓・日韓の協力関係などに絡んで難題が次々に降りかかりそうだ>

3月9日投開票の韓国大統領選は一種の経済ポピュリズムといえるほど国内消費に議論が集中している。アメリカからインド太平洋戦略への関与を強く求められているにもかかわらず、過去の大統領選で主要テーマだった安全保障と防衛の議論はほぼ皆無だ。

だが候補の李在明(イ・ジェミョン)と尹錫悦(ユン・ソクヨル)のどちらが勝利しても、次期大統領には就任初日から文在寅(ムン・ジェイン)の残した安全保障関連の難題が待ち受ける。以下に4つの主な論点を挙げよう。

■韓米関係は韓国大統領選の結果に影響されるか?

次期政権は、最近やや揺らいでいる韓米同盟を引き継ぐことになる。文の後継者は強靭で信頼性の高い韓米同盟を維持するために、北朝鮮の脅威への抑止力をいかなる方法で高めるのが最善かを判断しなければならない。

DMZ(非武装地帯)の監視所撤収などを定めた2018年9月の南北間の包括的合意や、戦時作戦統制権の米軍から韓国軍への移管を目指す試みによって北朝鮮に対する防衛体制は著しく弱体化した。韓米同盟は北の核兵器やミサイルの脅威に直面しており、指揮制御体制を統一的な単独構造に統合する必要がある。

■中国の軍拡主義にどう対処すべきか?

米中の緊張が高まるなか、文は状況に応じてどちらかに接近することで戦略的自律性を発揮しようとしてきた。しかし、この「安全保障と経済の分離」は実行が困難だ。

中国は南シナ海と東シナ海、台湾近海に軍を展開しており、朝鮮半島周辺がすぐに標的となる見込みは薄い。日本は自国の安全保障が損なわれるとして台湾の安全保障問題に意外なほど関心を寄せているが、韓国にはその懸念はない。

北の脅威と対峙する韓国は、外交と軍事政策を朝鮮半島に集中させるべきだ。米主導の反中国政策に同化しすぎるのは深刻な戦略的誤りだ。

■日韓関係への取り組みは?

仮に次期大統領に韓日関係修復の意欲があっても、国民感情によって制限が課されることだろう。アメリカのインド太平洋戦略には日韓関係の改善が必要だが、米政府はいまだに関与を拒んでいる。さらに韓国軍と自衛隊の相互運用性が低い点など3国間の協力緊密化を阻む課題も多い。

韓国と同じく日本にとっても、中国と北朝鮮は現実的な脅威だ。中国絡みの軍事的危機の発端は朝鮮半島かもしれないが、すぐにエスカレートして域内の主要な米軍基地や自衛隊基地に先制攻撃が加えられるかもしれない。

だが、そこまでの事態に至らない危機には既存の枠組みで対処できる。現時点では日韓の軍事的関係がより緊密になる見込みはない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏CPI、4月はサービス上昇でコア加速 6月

ワールド

ガザ支援の民間船舶に無人機攻撃、NGOはイスラエル

ワールド

香港警察、手配中の民主活動家の家族を逮捕

ビジネス

香港GDP、第1四半期は前年比+3.1% 米関税が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中