最新記事

宇宙

天の川銀河の中心で約1000本もの謎のフィラメントが発見される

2022年2月3日(木)17時44分
松岡由希子

銀河中心のパノラマ画像 (I. Heywood/SARAO)

<銀河中心(天の川銀河の中心部)は、非常に観測しづらいが、20地点から収集した計200時間の観測データをつなぎあわせてパノラマ画像を公開した>

約2万5000光年離れた銀河中心(天の川銀河の中心部)は、光の波長の一部を遮断する濃い塵やガスに覆われており、非常に観測しづらい。

米ノースウェスタン大学の天文学者ファルハド・ユセフ-ザデー教授は、1980年代前半に初めて銀河中心で磁気フィラメントを発見した。このフィラメントは光速に近い速度で磁気を旋回させる宇宙線の電子からなるが、その起源などについては依然として謎に包まれている。

「全景をついに見ることができた」

ユセフ-サデー教授らの研究チームは、南アフリカ電波天文台(SARAO)の電波望遠鏡「ミーアキャット(MeerKAT)」が3年かけて20地点から収集した計200時間の観測データをつなぎあわせ、2022年1月25日、学術雑誌「アストロフィジカルジャーナル」で銀河中心のパノラマ画像を公開した。

この画像では、150光年にわたって伸びる約1000本ものフィラメントが確認できる。この規模はこれまでに見つかったものよりも10倍多い。ユセフ-サデー教授は「我々は長年、近視眼的な視点でそれぞれのフィラメントを研究していた」と振り返るとともに、「多くのフィラメントでいっぱいになった全景をついに見ることができた。これはフィラメントの構造のさらなる解明につながる分水嶺だ」とその成果を強調している。

fig3a_alpha_original.jpg

フィラメントのスペクトル指数(Northwestern University/SARAO/Oxford University)

フィラメントの構造についてはまだ謎が多い

研究チームは、「ミーアキャット」の観測データをもとにフィラメントの磁場などについても詳しく調べ、その研究成果を1月25日、学術雑誌「アストロフィジカルジャーナルレターズ」で発表した。

これによると、フィラメントから放出される放射線の変動は、超新星残骸(超新星爆発の後に残る星雲状の天体:SNR)のものとは異なっていた。つまり、この現象の起源はそれぞれ異なっていると考えられる。研究チームは「フィラメントは銀河中心の超大質量ブラックホール(SMBH)『いて座A*(エー・スター)』の過去の活動と関連しているのではないか」と考察している。もしくは、ユセフ-サデー教授らが2019年に銀河中心で発見した電波を発する巨大な泡と関連している可能性もある。

多くのフィラメントが観測されたことによって、フィラメントの統計的特性を解明できる。たとえば、フィラメントが磁化していることはすでに知られていたが、フィラメントに沿って磁場が増幅されるという共通の特徴があることが新たにわかった。

フィラメントの構造についてはまだ多くの謎が残されている。フィラメントは群れをなし、ハープの弦のように等間隔に離れているが、フィラメントがなぜ群れをなしているのか、どのように分かれ、等間隔で離れたのかについては明らかになっていない。また、フィラメントが時間の経過とともに移動したり変化したりするのか、なぜ電子がこれほど異常な速度で加速するのかといった疑問も残る。

研究チームでは、今後、それぞれのフィラメントの角度や強度、曲線、磁気の強さや長さ、方向、放射線のスペクトルなどのカタログ化をすすめ、近い将来、その研究成果を発表していく方針だ。

Astrophysicists Reveal Absolutely Astonishing, Unprecedented Images Of The Milky Way

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

FRB、銀行監督の「大幅な変更」発表 金融リスクに

ワールド

ロシア、輸入電子機器に課税を計画 防衛力強化へ国内

ワールド

米陸軍トップ2人がキーウ訪問、和平交渉復活目指し=

ワールド

アイルランド財務相が辞任、世界銀行上級職へ転身
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 10
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中