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中国で放送禁止に 英ドラマ『2034 今そこにある未来』で描かれる、限りなくリアルなディストピア

──EU離脱後15年間の英社会に起こり得る出来事を、ブラックユーモアたっぷりに描く話題作

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2022年1月19日(水)11時00分
小林恭子(在英ジャーナリスト)

過激な発言で人気を集め、首相にまで上り詰めるコメンテーターを熱演するのは、エマ・トンプソン

<ウクライナからの大量難民、IQの低い国民の選挙権を剥奪──EU離脱後15年間の英社会に起こり得る出来事を、現実の世界情勢の延長線上に描いた話題作。ディストピアな未来から発せられる警告とは>

俊英の英脚本家ラッセル・T・デイヴィスがBBCのために「すごいドラマ」を作ったと話題になったのは、2019年のことだった。デイヴィスは英国で大人気の長寿SFドラマ『ドクター・フー』(BBC)を甦らせたことで知られる。作品の中では、お騒がせ政治家ドナルド・トランプ前米大統領が再選され、金融破綻や異常気象、伝染病が地球を襲う、ディストピアの世界が描かれているという。放送当時、筆者はこの近未来ドラマ『2034 今そこにある未来』(全6話)を見逃していた。

しかし、2020年春から世界中に広がった新型コロナウィルスが2年後の今も猛威を振るい、多くの人の命が失われたばかりか、雇用や生活に大きな打撃を引き起こす今日に視聴すると、ドラマの中で紹介された数々の「もしも」がリアルに迫ってきた。右派ポピュリズムの政治が広がり、伝染病が世界を席巻して失業者が大量に出るという3年前に想像されたディストピア像は、すでに現実になっている。

米ワシントンポスト紙はこのドラマを「2019年最高傑作の一つ」、英ガーディアン紙は「素晴らしい近未来ドラマ」と賞賛している。米中対決の場面で領土問題が取り上げられたことから、中国では放送禁止になったという。

2期目のトランプが核ミサイルを発射

英マンチェスターを舞台とした本作は、英国がEU(欧州連合)離脱に向かう2019年から34年までの15年間を、ある一般家庭の視点から描いたドラマだ。

マンチェスターといえば、大英帝国時代に産業革命を支えたことで知られているが、デイヴィス自身がマンチェスターに住み、この都市を深く愛しているという。ブルジョア層・インテリ層が住む「気取った」英南部に対し、地に足をつけた人が住む北部を代表する街だ。デイヴィスがドラマの舞台にこの地を選んだのも、「誰にでも起こり得る近未来」を描きたかったからに違いない。

ドラマの背景にあるのは、2016年の米大統領選挙でトランプ候補が大方の予想を裏切って当選したことへの大きな驚きと失望だ。米国第一主義を唱え、反移民感情を扇動し、女性や弱者に対する差別的発言をするような人物が世界最強の国のトップに選ばれるわけはない。多くの人がそう思ったはずだ。彼の大統領就任で、世界中が排他的・超保守的潮流に変わっていくのではないかという懸念が表出した。

このドラマの中では、第2期目を迎えたトランプ政権下に米中関係は極限に達する。大統領が「最後の手段」として核ミサイルを発射し、それを境に世界情勢は恐ろしい展開に加速していく。

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