最新記事

日本社会

「あの林家の息子」と知られ仕事はクビ、結婚も破談に 和歌山カレー事件の加害者家族を襲った過酷な日々

和歌山毒物カレー事件の林眞須美死刑囚の長男

林眞須美死刑囚の長男 撮影筆者


殺人などの凶悪事件では、加害者本人だけでなく、その家族にも厳しい批判が向けられることがある。1998年の「和歌山毒物カレー事件」では殺人などの罪で林眞須美死刑囚の死刑が確定している。その一方、林死刑囚の長男は「一部のマスコミに人生を狂わされた」と訴えている。ライターの加藤慶さんが、その半生を聞いた----。

長女が自殺すると、約30人のマスコミが自宅に詰めかけた

林浩次さん(仮名・34歳)は、和歌山毒物カレー事件で死刑が確定した林真須美死刑囚の長男である。今から約23年前の1998年10月4日、両親が殺人未遂と保険金詐欺の容疑で逮捕されたのを境に、浩次さんは加害者家族「林家の息子」として、社会から想像を絶する虐げを経験する。

「早く終わりにしてほしい。毎年7月25日(※事件当日)が近づくたびに新聞記者が殺到して、『被害者の方は坊主憎けりゃ袈裟まで憎いみたいなことを言ってました』と問い詰められる。(息子だと知られると)自分の結婚もダメになって、会社の人には今でも(素性を)内緒で働いて......。仕事が終わったらワンルームの自宅に帰って、『Netflix』を見て酒を飲んで寝るだけの生活。本当に、ただ息をしているだけの暮らしをずっと続けてきた」

「早く終わりにしてほしい」と訴えたのは、今も母親の無実を信じて冤罪(えんざい)を世間に訴えているからだ。現在、和歌山地裁に再審請求を申し立て、受理されている。

無情にも今年6月9日には自分の姉である長女が大阪府内の連絡橋から4歳の娘とともに身投げをした。父親の健治さんの自宅には約30人のマスコミが詰めかけ、浩次さんの携帯電話の着信音は鳴りやまなくなった。

気丈に振る舞っていた浩次さんを、若い新聞記者はこう問いただしたという。

「泣かないんですね。悲しくないんですか?」

まさかの問いかけに絶句。言葉も失った。

「人権はないに等しいですね」

自分を守るため、取材を拒否するのも一つの手段である。なぜ取材に応じるのか。

「お姉ちゃんが亡くなった件に対しては取材拒否とか、そんな都合の良いようにできない。何とかして、お母さんがやっていないと伝えたいんです。再審請求を認めてほしいですから」

逆にいえば、この不幸な事件によって加害者家族という位置付けが、より明確化したとも付け加えた。

「人権はないに等しいですね。お姉ちゃんが亡くなって、警察からまだ連絡も来てない状況で(マスコミが)殺到した。喪中だろうが、身内の死の当日だろうが、お構いなしなので。初めてある種の覚悟をしなきゃいけないと思ったんです。犯罪者の身内というのはこういう状況なんだと、改めて考えさせられた。いくら人権を主張したところで、この問題は一生ついて来るんだろうって」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

アングル:中国で値下げ競争激化、デフレ長期化懸念 

ワールド

米政権、農場やホテルでの不法移民摘発一時停止を指示

ワールド

焦点:イスラエルのイラン攻撃、真の目標は「体制転換

ワールド

イランとイスラエル、再び相互に攻撃 テヘラン空港に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラドールに涙
  • 3
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 4
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 5
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 6
    ひとりで浴槽に...雷を怖れたハスキーが選んだ「安全…
  • 7
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    プールサイドで食事中の女性の背後...忍び寄る「恐ろ…
  • 10
    救いがたいほど「時代錯誤」なロマンス映画...フロー…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中