最新記事

韓国

無責任で偏った韓国メディアの「表現の自由」を問う試み

Tackling Fake News

2021年11月24日(水)17時05分
ヒェジン・キム(シンガポール国立大学政治学部講師)
韓国メディア

韓国の有力新聞は権力に組み込まれている SEONGJOON CHOーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

<国の権力構造に組み込まれ、無責任な報道を乱造し続ける韓国の大手メディアが「フェイクニュース」規制法を批判する矛盾>

韓国与党は「言論仲裁法」改正案の成立を目指している。この法案が施行されれば「フェイク(偽)ニュース」の被害者が報道機関に賠償請求できるようになる。ところが、この「反フェイクニュース」法案を、国際社会は表現の自由を抑圧する反民主主義的試みだと猛批判。結局、採決は来年に先送りとなった。

今回の改正案に対する国際社会の批判は間違った根拠に基づいている。韓国が取り組もうとしているのは、今では普遍的な問題だ。

巨大IT企業などのメディアは政治的動機に基づくデマの拡散に巻き込まれていて、世界中の政策立案者が対応に苦慮している。韓国の改正案はメディアへの権威主義的抑圧の復活などではない。それどころか、変わりゆく民主主義とメディアの関係に向き合う、時代を先取りした取り組みだ。

国際新聞編集者協会の声明によれば、改正案をめぐる主な懸念は政府関係者や政治家が批判を抑圧するために利用するのではないか、というものだ。報道機関は仕事をするだけで裁判沙汰になることを危惧している。報復を恐れて自己検閲に走る可能性もあり、そうなれば権力の監視という役目を果たせなくなる。

もっともな懸念だと、改正案の起草者たちも同意している。メディアを規制する試みにはそうしたリスクが付き物だ。改正案をめぐる審議でも、言論の自由を守る必要性は議論され合意されている。

韓国メディアのずさんさ

ただし、改正派は「市民の権利」を言論の自由と対立するものと捉えている。「報道の被害者」にならない権利、つまりメディアのデマに苦しめられない権利もその1つだ。韓国では人生やキャリアを傷つけかねないいわれのない中傷記事が多すぎる。

韓国の大手メディアのずさんな編集基準は歴史に起因している。冷戦時代の権威主義体制の下で、韓国メディアは政権を支持するような記事の捏造が許され、時には奨励すらされていた。新聞は誰かを共産主義者呼ばわりするなど根も葉もない告発や噂を広め、その人物をおとしめることが可能だった。

民主化後も無責任な報道は野放しのままだった。韓国の大手報道機関は多業種にまたがるコングロマリット(巨大な企業グループ)に属しており、メディアはその一角にすぎない。韓国の主要メディアグループは権力の監視役たる「第4階級(言論界)」ではなく――韓国にもそうしたメディアはあるが──むしろ国の権力構造に組み込まれている大手企業の一部だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、マネロン「ブラックリスト」解除へ一歩 国際

ビジネス

ホンダ、カナダで雇用維持確約と産業相 EV計画延期

ビジネス

日経平均は続落で寄り付く、高値警戒感が台頭 円安一

ワールド

バチカンが世界紛争の仲介役に、平和に「全力」と新ロ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    加齢による「筋肉量の減少」をどう防ぐのか?...最新研究が示す運動との相乗効果
  • 2
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 3
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因は農薬と地下水か?【最新研究】
  • 4
    トランプ「薬価引き下げ」大統領令でも、なぜか製薬…
  • 5
    iPhone泥棒から届いた「Apple風SMS」...見抜いた被害…
  • 6
    宇宙から「潮の香り」がしていた...「奇妙な惑星」に…
  • 7
    サメによる「攻撃」増加の原因は「インフルエンサー…
  • 8
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 9
    終始カメラを避ける「謎ムーブ」...24歳年下恋人とメ…
  • 10
    対中関税引き下げに騙されるな...能無しトランプの場…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    加齢による「筋肉量の減少」をどう防ぐのか?...最新研究が示す運動との相乗効果
  • 3
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 4
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因…
  • 5
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 6
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 7
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 8
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 9
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 10
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 6
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 8
    加齢による「筋肉量の減少」をどう防ぐのか?...最新…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中