最新記事

感染症対策

コロナ治療薬は「ワクチンの代わりにならない」 その理由とは?

2021年11月9日(火)19時36分
メルクの新型コロナウイルス経口治療薬

米メルクと米ファイザーが開発した新型コロナウイルス感染症治療の飲み薬は、早期に服用すれば重症化や死亡のリスクを抑えられる効果が確認された。写真はメルクの治療薬。提供写真(2021年 ロイター/Merck & Co Inc)

米メルクと米ファイザーが開発した新型コロナウイルス感染症治療の飲み薬は、早期に服用すれば重症化や死亡のリスクを抑えられる効果が確認された。しかし、医師らは治療薬の効果とワクチンの予防効果を混同し、ワクチン接種をためらうことがあってはならないと、警鐘を鳴らしている。

カイザー・ファミリー財団の調査によると、米国では成人の72%が1回目のワクチン接種を終えたが、その後の接種ペースは減速している。米国ではコロナワクチンの価値と安全性について、党派間で見解が分かれており、企業や州、連邦政府による接種義務化が接種を促進する半面、接種を巡る論争をあおった側面もある。

経口治療薬の登場により、接種プログラムがさらに阻まれる可能性も指摘されている。ニューヨーク市立大学(CUNY)公衆衛生大学院が市民3000人を対象に行った調査では、治療薬が「ワクチン接種を進める取り組みの障害になりかねない」(CUNYの公衆衛生コミュニケーション専門家、スコット・ラットザン氏)との暫定結果が出た。

ラットザン氏によると、調査対象の8人に1人は、ワクチンを接種されるよりも治療を受ける方がましだ、と答えた。「これは高い数値だ」と同氏は言う。

ファイザーは5日、新型コロナ治療薬「パクスロビッド」の臨床試験(治験)で、重症化とそれに続く死亡を89%抑える効果を確認したと発表した。これに先立ち、メルクなどは10月、抗ウイルス薬「モルヌピラビル」が重症化・死亡リスクを半分に抑えると発表。英当局は4日にモルヌピラビルを条件付きで承認した。

両薬ともに、米当局の承認はまだ得ていない。だが、12月には販売される可能性がある。

ただ、米ベイラー医科大学のワクチン専門家、ピーター・ホテズ氏は「抗ウイルス薬だけに頼るのはサイコロを振るようなものだ。確かに何もないよりはましだが、イチかバチかの賭けになる」と語る。

ロイターが取材した感染症専門家6人は、有効な治療法が登場することを一様に大歓迎しているが、ワクチンの代わりにはならない、という点でも意見の一致を見た。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 7
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 10
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中