最新記事

中国不動産

恒大物業、株売却頓挫の舞台裏──習近平の厚意を蹴った恒大集団

2021年10月22日(金)22時57分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

もっとも、恒大集団の76.26%の株を許家印夫妻が持っているので、許家印の意思決定ということもできよう。だとすれば習近平の厚意を踏みにじった許家印夫妻に楽観できる運命が待っているとは思いにくい。

中国政府側の意思表明が意味するもの

中国人民銀行は10月15日の第三四半期金融統計発表会で「不動産業界の問題はコントロール可能である」ことと「恒大問題は個別の問題である」旨の回答をした。中国政府側が初めて恒大問題に関して意思表示をしたことになる。

続いて17日に開催された30ヵ国グループ国際銀行業界フォーラムで、中国人民銀行総裁は「中国経済は順調であり、中国恒大の債務問題の波及効果はコントロール可能である」と述べる一方で、やはり「恒大集団の問題は個別問題である」ことを鮮明にし、「消費者や住宅購入者の保護を最優先する」と強調している。

また中国の経済に関しては最高レベルの職位にいる劉鶴国務院副総理は10月20日に北京で開催された「2021年金融街フォーラム年次総会」に書面でスピーチを寄せ、金融リスクに関して以下のように述べている。

──リスクを解決するために中小金融機関の改革を推進し、一部の大企業のデフォルトリスクを処理すべきだ。 現在、不動産市場では個別の問題が発生しているが、リスクはおおむねコントロール可能であり、合理的な資金需要は満たされており、不動産市場の健全な発展という全体的な流れは変わらない。

こういった中国政府側の動きを見ると、中国政府は10月13日時点で、恒大集団が合生創展集団との契約を破棄していた情報を把握していたと考えていいだろう。

この救済策を恒大集団側が蹴ったとなれば、債務危機を深めていく恒大集団の住宅を購入している一般庶民(中間層)の恒大集団に対する怒りが膨れ上がるにちがいない。

それを抑えなければならないとする中国政府側の狙いと、不動産業界全体は制御可能でも、恒大集団の暴挙を看過するわけにはいかないという意図が、中国政府側の言動に透けて見える。

何と言っても、習近平が水面下で差し伸べた救済の手を恒大集団は「小さな利益」を追及して蹴ったのだから、如何なる運命が待ち構えているか、予断を許さない。

恒大集団創始者・許家印の罪と罰

実は恒大集団は10月9日に以下のような公告を出している。

すなわち 恒大集団の幹部6人が、恒大集団傘下にある理財商品などを売る恒大財富集団の理財商品を購入していたのだが、その6名は購入した理財商品が満期になる前に現金化して自分のポケットに入れた。それがばれてデモが起きたりネットで批判されたりしたので、政府からの指導も受け、恒大集団の指定口座に返還した。その上で、恒大集団はさらに6人に対して説明責任を問い処罰を与えていますという公告だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ政権、零細事業者への関税適用免除を否定 大

ビジネス

加藤財務相、為替はベセント米財務長官との間で協議 

ワールド

トランプ米大統領、2日に26年度予算公表=ホワイト

ビジネス

米シティ、ライトハイザー元通商代表をシニアアドバイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中