最新記事

中国

中国共産党の権力闘争と自民党の派閥争い

2021年9月19日(日)15時25分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

何度も引用して申し訳ないが、習近平がなぜ反腐敗運動を始めたかに関しては、拙著『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』で詳述している。

ここでは多くは書けないが、一つだけ取り上げたいのは「軍のハイテク化」だ。

軍部は中国建国以来、ソ連方式の編成体制で動いており、中国の場合はさらに陸軍を中心として地方分権化していった。軍区における腐敗は手の付けようがなく、軍の近代化の手かせ足かせとなったので、軍の幹部を腐敗の嫌疑で逮捕し、2015年に軍事大改革を断行して中央軍事委員会主席の直轄とする戦区に編成替えしてロケット軍を創設した。

この改革により中国は世界一のミサイル攻撃力を持つに至ったのである。

同時にハイテク国家戦略「中国製造2025」を発布して、AIや5Gあるいは半導体や宇宙開発でアメリカに追いつき追い越そうと全力投入を始めた。

昨日も、中国が独自に開発した宇宙ステーションに滞在していた宇宙飛行士たちが帰還したばかりだ。この宇宙ステーションは来年には正式に稼働する。

習近平が李克強と権力闘争をしているなどという噂で日本人を喜ばせている中国研究者は反省すべきだろう。日本人を騙している間に、中国は日本を経済的にも軍事的にも追い越してしまっている。

中国共産党と自民党における権力闘争の類似点と相違点

類似点:

●中央に「利権政治」が絡んでいるときは、派閥闘争が激しく国家戦略に欠ける。現在の自民党の中に「利権政治」が潜んでいないかを分析すべきだ。

●「党を永続させる」という目的においては、両者とも派閥を超えて一致している。党が滅びる(あるいは弱体化する)ようなことがあれば、それまで手にしてきた利権(あるいは栄誉や政治生命など)を失うからだ。

相違点:

●日本は「誰が総理大臣になるか」という「勝ち馬に乗る」ための派閥性が強く、「国家戦略」において大きな目標を見失っている(高市早苗候補は明確な国家観を持っているが)。

●最大の違いは、日本には民主主義があり、中国は一党支配体制であるということだ。それなのに日本は、まるで自民党の一党支配体制のようになっている。これは中国との類似点に入れるべきかもしれない。

なお、習近平が延安時代の革命精神を強調し、中国を中国共産党の原点に戻そうとしているのは、鄧小平の陰謀によって父・習仲勲が16年間にも及ぶ牢獄・軟禁生活を送らされたからであり、革命の聖地「延安」を築いたのは習仲勲だからだ。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら

51-Acj5FPaL.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

20240528issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月28日号(5月21日発売)は「スマホ・アプリ健康術」特集。健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

仏大統領、ニューカレドニア視察 選挙改革の延期表明

ビジネス

マスク氏、バイデン氏の対中関税引き上げに反対 「市

ビジネス

米4月新築住宅販売、前月比4.7%減の63万400

ワールド

メキシコ大統領選集会で舞台倒壊、9人死亡 支持率3
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレドニアで非常事態が宣言されたか

  • 2

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決するとき

  • 3

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」...ウクライナのドローンが突っ込む瞬間とみられる劇的映像

  • 4

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 5

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 6

    韓国は「移民国家」に向かうのか?

  • 7

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 8

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 9

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 10

    高速鉄道熱に沸くアメリカ、先行する中国を追う──新…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 8

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 9

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 10

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中