最新記事

外交

アフガニスタン情勢、アメリカが築いた土壌の上に中国が平和をもたらす

China Will Do Better Than U.S.

2021年8月26日(木)18時19分
アジーム・イブラヒム(フォーリン・ポリシー誌コラムニスト)
タリバン幹部と中国外相

タリバン幹部のバラダル師(左)は天津を訪問して中国の王毅外相と会談した(7月28日) LI RANーXINHUAーREUTERS

<タリバンとの関係構築にいち早く動いた中国だが、控えめな介入は意外な平和をもたらすかもしれない>

米軍はアフガニスタンからほぼ撤退し、首都カブールはイスラム主義組織タリバンに制圧された。それでも、中国がアフガニスタンに軍を送る気配はない。

むしろ中国は、タリバンに対してはもちろんのこと、全ての当事者に物やカネを与えようとしている。これから中国が取ろうとしている道は、アメリカが示した国力と軍事力によるアフガニスタン再建計画よりもうまく、そして安上がりになりそうだ。

これまで中国がアフガニスタンに抱いてきた懸念は、地域の不安定化を引き起こすこと、そしてアフガニスタンが中国・新疆ウイグル自治区の反政府勢力への援助基地となったり、中国の抑圧を逃れようとするウイグル人の避難先になることだった。

しかしタリバンは過去20年間の経験から、テロ集団、特に大国(欧米諸国や中国、ロシア、あるいはインドまでも)を標的にしかねないアルカイダのような国際テロ組織に避難所を提供しないことを学んだようだ。既にウイグル人の武装勢力とは距離を置き、逆に中国政府に接近している。

中国はアフガニスタンの政治や統治には関心がない。アメリカとNATOがアフガニスタンで進めようとした人権の確立や国家建設の取り組みにも、関心がない。

その一方で中国は、自国と欧州を結んで築こうとしている広域経済圏「一帯一路」のレンズを通じてアフガニスタンを見ている。既に中国はアフガニスタンの北にある中央アジア諸国を通る広範な交通インフラを構築しており、パキスタンを縦断するルートも建設中だ。

この2つのルートの間で、アフガニスタンは非常に微妙な位置にある。アフガニスタン国境地帯の不安定な情勢は、この2つのルートに影響を与える恐れがあった。

アメリカが払ったコストで中国が得をする

中国が望むのは、紛争が国境を越えて波及しないことだ。アメリカがもたらしたアフガニスタンの安定は、中国が拡張主義を推し進める下地を用意した。米政府はそのために莫大な財政的・人的コストを被ったことになる。

一帯一路構想のルートは、必ずしもアフガニスタンを通る必要はない。中国からアフガニスタンに対する投資は短期的なものになり、情勢がさらに不安定になれば容易に撤退できるような形になる可能性が高い。

今まで中国は、アフガニスタンの前政権と良好な関係を築いていた。この先アフガニスタンにどのような政府が生まれようと、これまでと同じく現実的な関係を築こうとするだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英4月製造業PMI改定値は45.4、米関税懸念で輸

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる

ワールド

韓国最高裁、李在明氏の無罪判決破棄 大統領選出馬資

ワールド

マスク氏、FRBへDOGEチーム派遣を検討=報道
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中