最新記事

ブロックチェーン

周到に準備されてきた中国ブロックチェーン覇権、来年ついに実を結ぶ?

China’s Big Blockchain Bet

2021年7月29日(木)17時18分
アレクサンダー・ザイチック、ケリー・リジーニー・キム、アンジー・ラウ
ビットコインと招き猫(イメージ画像)

ANDRIY ONUFRIYENKO/GETTY IMAGES

<早々と来年の冬季五輪でデジタル人民元がデビュー。あらゆる業種の構造に分散化技術を導入し他国に先駆ける>

暑さもウイルス感染も真っ盛りの時期に始まったシュールな東京五輪はともかく、本来ならオリンピックは選手にとっても開催国にとっても最高の晴れ舞台だ。思い返せば2008年の夏、世界金融危機の直前に開かれた北京五輪の開会式では、中国古来の打楽器を総勢2008人の奏者が一糸乱れずに打ち鳴らし、高らかに現代中国の復権を告げた。

そして半年後、今度は北京で冬のオリンピックが開催される。もちろん中国政府はすごいサプライズを用意している。世界初の官製暗号資産(仮想通貨)、デジタル人民元(e-CNY)の世界デビューだ。

世界初といっても、一般の消費者が戸惑うことはなさそうだ。価値は既存の人民元と同じだし、使い方は既存のキャッシュレス決済と大差ない。端末画面をタップ、スワイプ、またはQRコードを読み込むだけでいい。

しかし、もともと国家の介入を排除するために考案された仮想通貨を、国家が発行・管理するのは想定外の展開。購買行動や金融取引に関するプライバシーの問題など、未解決の問題は多い。

もっと深刻なのは、国境を越えた資金移動に及ぼす影響だろう。果たして官製デジタル人民元は、米ドルの支配する国際金融システムに風穴を開けるのか。香港を拠点とする金融アナリストのポーリン・ルーンに言わせると、最も注目したいのは誰が、どの程度まで「資本へのアクセスと資本の動きを支配」することになるかだ。

きっかけは08年の金融危機

ただし、そうした影響は中国政府が巨大な「赤いカーテン」の裾からのぞかせる小さな爪先程度の意味しか持たない。カーテンの奥に潜んでいるのは、いわゆるブロックチェーン(分散型台帳)の技術を用いて国家と経済の情報インフラをそっくり作り直すという壮大な野望だ。

言い換えれば、目指すは次世代インターネットへの一番乗り。e-CNYで未踏のデジタル世界に踏み出し、そこにブロックチェーンの鉄路を敷設しようということだ。

この野望が芽生えたのは、2008年の世界金融危機の時期だ。アメリカの無節操な金融政策のせいで世界中が景気後退に陥るのを見て、こんな脆弱なシステムはもうごめんだと、中国側は思った。

当時の国家主席・胡錦濤(フー・チンタオ)はG20諸国の首脳に「国際金融システムの多様化を着実に促進」しようと呼び掛けたが、各国の反応は鈍かった。

そこで中国は、米欧主導の国際金融システムに対抗する仕組みの構築に乗り出した。アメリカが経済制裁でイランの資金調達源を断とうとすると、中国は国境を越えた資金移動の独自ルートづくりに力を入れ始めた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米、中国からのレアアース輸出加速巡り合意=ホワイト

ワールド

中国メディア記者が負傷、ウクライナの無人機攻撃で=

ビジネス

アングル:無難入札に「クジラ」の影、株高が支える債

ワールド

インド、国境問題の「恒久的解決」呼びかけ 中印国防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 2
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉仕する」ポーズ...アルバム写真に「女性蔑視」批判
  • 3
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事実...ただの迷子ですら勝手に海外の養子に
  • 4
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 5
    【クイズ】北大で国内初確認か...世界で最も危険な植…
  • 6
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 7
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 8
    伊藤博文を暗殺した安重根が主人公の『ハルビン』は…
  • 9
    富裕層が「流出する国」、中国を抜いた1位は...「金…
  • 10
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 7
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 8
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中