最新記事

中国

中山服をトップのみが着るのは中国政治の基本:建党100周年大会の構成と習近平演説を解剖

2021年7月3日(土)13時36分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

――中国人民は正義を敬い、強暴を恐れない民族で、中華民族は強烈な民族の誇りと自信を持っている。中国人民は、一度も他国の人民を虐めたり圧迫したり奴隷のように扱ったりしたことがない。過去も現在も、そして将来もそういうことはしないだろう。同時に・・・

と言った時だ。普通なら演説の段落となる区切りがあるときに拍手をするという暗黙の了解があるのだが、まだ言葉が終わってないのに拍手が起きてしまって、習近平の言葉が遮られてしまった。ようやく静まったので、習近平は「同時に」を二度言って言葉をつないだ。

――同時に、中国人民はいかなる外来勢力がわれわれを虐め、圧迫し、奴隷のように扱うことに対しても絶対に許さない・・・

習近平が息を継いで、次の言葉を言おうとしたときだ。ここでまた歓声と拍手の嵐が巻き起こり、習近平は言葉を中断して、喝采が終わるのを待たなければならなかった。そして次のようにこの段落の言葉を続けた。

――このような妄想を抱く者は、必ず14億の人民の血と肉を以て築いた鉄の長城によって木っ端微塵にやられるだろう!

この最後の「木っ端微塵にやられるだろう」の中国語は「頭破流血」という、『西遊記』に出てくる言葉だが、直訳すれば「頭が破裂し血を流すだろう」となる激しい中国語だ。散々な目に遭うという意味でもある。

この一連の言葉は、中国の国歌の冒頭の歌詞「立て!奴隷となることを望まない者よ!私たちの血と肉を以て私たちの新しい長城を築け!」をもじったものであることは、中国人なら分かるはずだ。

この段落が終わると、天地を揺らさんばかりの拍手喝采が起こり、「いいぞ―!」という意味の「好(ハオ)―!」という歓声がしばらく鳴り響いて、習近平は一時演説を続けるのを止めてしまったほどだ。

これは演説を聞くときのルールを逸脱した行為で、拍手喝采がいかに聴衆側から自発的に発せられたものであるかが窺(うかが)われる。

つまり、これは「人民の声」であることを示唆しており、多くの中国人民、特に若者はアメリカから中国が「虐められている」と感じており、アメリカが対中包囲網を叫べば叫ぶほど若者の愛国心が強化され、中国共産党への声援を強くしていくということを示しているのである。

しかも、あまり効力の高くない対中包囲網だとすると、アメリカは結局、中国人民の党への忠誠心を増強させる結果を招くだけになる。一党支配体制強化につながるのだ。

だから私は日頃から、バイデン政権の「実際には効力のない、表面上の対中包囲網」に対して警鐘を鳴らし続けているのである。

若者の心理を心得ている習近平は、さらに以下のように演説している。

――中国共産党と中国人民を分裂させようとする如何なる外国の企ても、絶対に成功しない。9500万人の中国共産党は絶対にそれを許さない!14億以上の中国人民も絶対に許さない!

これはポンペオ(元国務長官)が言った「中国共産党と中国人民を分離させろ」という言葉に対する抗議で、拍手の度合いが、その非現実性を表していると言っていいだろう。  

文字数が良識の程度を超えてしまったようだ。

今回の分析は、ここまでにしておこう。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら

51-Acj5FPaL.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

第1四半期の中国GDPは予想上回る、3月指標は需要

ビジネス

トヨタ、富士松工場第2ラインを17日から稼働再開

ワールド

スーダン内戦1年、欧米諸国が飢餓対策で20億ユーロ

ワールド

香港の国家安全条例、英では効力なく市民は「安全」=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無能の専門家」の面々

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 5

    キャサリン妃は最高のお手本...すでに「完璧なカーテ…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    金価格、今年2倍超に高騰か──スイスの著名ストラテジ…

  • 8

    イスラエル国民、初のイラン直接攻撃に動揺 戦火拡…

  • 9

    甲羅を背負ってるみたい...ロシア軍「カメ型」戦車が…

  • 10

    中国の「過剰生産」よりも「貯蓄志向」のほうが問題.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入、強烈な爆発で「木端微塵」に...ウクライナが映像公開

  • 4

    NewJeans、ILLIT、LE SSERAFIM...... K-POPガールズグ…

  • 5

    ドイツ空軍ユーロファイター、緊迫のバルト海でロシ…

  • 6

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 7

    ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクラ…

  • 8

    金価格、今年2倍超に高騰か──スイスの著名ストラテジ…

  • 9

    ドネツク州でロシアが過去最大の「戦車攻撃」を実施…

  • 10

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中