最新記事

読書

研究で見えてきた「知能の発達」を促す絵本の選び方と、読み聞かせ方

Parents: Read the Right Books at the Right Time

2021年6月1日(火)17時42分
リサ・スコット(フロリダ大学心理学部准教授)
子供に絵本の読み聞かせをする父親(イメージ)

驚いたり喜んだり、絵本の扉の奥に広がる未知の世界を親子で旅しよう LOPOLO/SHUTTERSTOCK

<絵本の読み聞かせが大切なのは、もはや常識。効果を高めるために心がけたいのは、成長に応じた本選びと親の語り掛け>

本の読み聞かせは子供の知能の発達にとってプラスになる──これはもう、子育ての常識。近年では0歳児の健診時に絵本をプレゼントする活動なども広がり、多くの家庭に読み聞かせの習慣が浸透している。12 年の米教育省の調査では、3〜5歳の子供の83%が週に3回以上、家族の誰かに絵本の読み聞かせをしてもらっていた。

ただ気になるのは、親が子供のために絵本を選ぶとき、何を基準にしたらいいかについて、ほとんど情報がないこと。幼児向けの絵本なら、何を読み聞かせても効果は同じだろうか。それとも絵や内容で変わる? 0歳児向けの絵本は、3歳児向けの絵本とは違うのだろうか。

効果的な読み聞かせをするには、親はどんなことを心掛けたらよいのか。私たちの心理学研究室では、それを探るために一連の実験を行ってきた。読み聞かせが子供の脳と行動の発達に及ぼす影響をより深く理解すること──それが私たちの研究の大きな目標だ。

過去の研究で、読み聞かせが子供の知能の発達を促すことは確認されている。語彙が増え、自分で本を読むための下地ができるなど、子供の言語・認知能力の発達に大いにプラスになる。

それだけではない。絵本の内容について親が赤ちゃんに語り掛け、それに応えて子供が声を出したり笑ったりするなど、親子のやりとりが増える効果もある。読み聞かせを習慣にすれば自然とスキンシップが増えることも見逃せない。

最近の研究では、乳幼児期における質・量共に充実した読み聞かせは、その後の語彙力、読む力、自分の名前を書けるかどうかと相関があることが確認されている。

では、0歳児への読み聞かせで、より大きな効果が期待できる絵本はあるのだろうか。あるとすれば、それはどんな絵本か。

私たちは手始めに、生後6カ月の赤ちゃんが今まで見たことのない絵本のキャラクターにどう反応するかを調べた。

保護者に連れられて研究室にやって来た赤ちゃんは、保護者の膝に座ってコンピューター画面に登場するキャラクターと対面する。このときの脳の活動を調べるため、赤ちゃんの頭には128個のセンサーが付いたネットキャップをかぶせてある。このキャップで脳波を測定し、赤ちゃんが画面を見ているときに脳のどの部位が活発に働いているかを調べるのだ。

同時に赤ちゃんの目の動きも装置で記録。キャラクターのどの部分に注目しているか、どのくらいの時間にわたり注意を向けているかなども調べる。

登場人物を名前で識別

測定が終わって帰るときに同じキャラクターが登場する絵本を保護者に渡し、家で読み聞かせをしてもらう。最初の来訪時に収集したデータを基準にして、家での読み聞かせによって、赤ちゃんの反応がどう変わるかを次回の測定で調べる。

私たちは実験に参加した親子を3つのグループに分けた。第1グループには、コンピューター画面で赤ちゃんが初めて見た6つのキャラクターがそれぞれ名前を与えられて登場する絵本を渡し、家で読み聞かせをしてもらった。

第2のグループにも6つのキャラクターが登場する絵本を渡したが、こちらは個々のキャラクターに名前が付いておらず、どのキャラクターも架空の同じ名前で呼ばれている。第3グループは比較のために、家での読み聞かせを特に要求しない対照群とした。

3カ月後、再び研究室に来た赤ちゃんの反応を調べたところ、個々のキャラクターに名前が付いた絵本を読み聞かせたグループだけが初回の測定時よりもキャラクターに強い関心を示した。

しかも脳の活動から、このグループの赤ちゃんは個々のキャラクターをちゃんと見分けていることが分かった。第2のグループにも対照群にも、こうした現象は認められなかった。

この実験結果は、0歳児に周囲の事物を名前で識別する能力があることを示唆している。先行研究でも示されているように、まだ言葉が話せない段階でも、読み聞かせには知能の発達を促す効果があると考えていい。

では、読み聞かせの効果を高めるために親にできることは何か? 私たちの研究から言えるのは、次のような事柄だ。

まず、幼児向け絵本なら何でもいいわけではない。0歳児と2歳児、さらには4歳児では推奨できる本は違ってくる。子供の成長に合わせて最適な本を選ぶこと。

私たちの実験が示すように、0歳児への読み聞かせでは個々のキャラクターに名前が付いた絵本に大きな効果が期待できる。ただし、子供によって興味の対象は異なるので、動物好きの子には動物の絵本など、子供の好きな本を選ぶこと。

キャラクターに名前が付いていなければ、読み聞かせをするときに名前を付けるといい。

キャラクターに名前が付いていると、親から子への語り掛けがより活発になるために学習効果が高まるのかもしれない。親の語り掛けはとても重要だ。

読み聞かせを日々の習慣にし、絵本に出てくるキャラクターを名前で呼んで、赤ちゃんに語り掛けること。絵本のページを開くとき、そこには未知の世界が待ち受けている。赤ちゃんと一緒に驚きと発見の旅を楽しもう。

The Conversation

Lisa S. Scott, Associate Professor in Psychology, University of Florida

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ECB緩和終了の可能性、貿易巡り金利据え置きを=ス

ビジネス

アマゾン、プライム配送サービスを年内に米地方都市に

ビジネス

フジ・メディア株主総会始まる ファンドが北尾氏らを

ワールド

イラン核計画「中核部分は破壊されず」、米情報機関が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 3
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり得ない!」と投稿された写真にSNSで怒り爆発
  • 4
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 5
    都議選千代田区選挙区を制した「ユーチューバー」佐…
  • 6
    細道しか歩かない...10歳ダックスの「こだわり散歩」…
  • 7
    「子どもが花嫁にされそうに...」ディズニーランド・…
  • 8
    人口世界一のインドに迫る少子高齢化の波、学校閉鎖…
  • 9
    「温暖化だけじゃない」 スイス・ブラッテン村を破壊し…
  • 10
    イスラエル・イラン紛争はロシアの影響力凋落の第一…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 6
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 7
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 8
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 9
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 10
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 10
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中