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パレスチナの理解と解決に必要な「現状認識」...2つの国家論は欺瞞だ

The False Green Line

2021年5月18日(火)19時04分
ユセフ・ムナイェル(米アラブセンター研究員)

同財団はさらに、「二つの国家」が実現されていない現状では、「イスラエルの支配下にある全ての人に完全な平等と参政権を保障する新たな解決策を支持する」ことをアメリカ政府が宣言すべきだと論じている。

こうした変化を見ると、ようやくグリーンライン幻想を捨てる人が増えたのかと思いたくなる。だが実を言えば、幻想との決別を公言する人が増えたということだ。

各国のアナリストや外交官は何年も前から、非公式の会話の場では「一つの国家」の現実を認めていた。しかしグリーンラインの幻想を捨てる勇気はなかった。

アメリカ政府は早くも1967年の国家情報評価報告で、ユダヤ人入植地の拡大はイスラエルによるヨルダン川西岸の恒久的な支配につながると警告していた。同様の警告は、以後も複数の政府当局者が発している。例えばジミー・カーター元大統領は06年の著書で、このままだとイスラエルはアパルトヘイト国家になると警告した。

1980年代の初頭には、メロン・ベンベニスティ(70年代にエルサレム副市長を務めた人物。一貫して「二つの国家」の実現に尽力した)が「真夜中まであと5分」と警告していた。ヨルダン川西岸へのユダヤ人入植者が10万人に達したときのことだ。

それから40年がたち、気が付けば入植者数は50万を超えている。もう、とっくに真夜中は過ぎた。日は昇り、一つの国家による占領支配の現実を白日の下にさらしている。どこにも、二つ目の国家など見えはしない。

ただ、これが現実。その現実が見えたことを、今はよしとしよう。

From Foreign Policy Magazine

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