最新記事

新型コロナウイルス

ワクチン接種による集団免疫を阻むイスラエル分断の「壁」

Finding Herd Immunity Hard to Achieve

2021年2月25日(木)17時00分
ジョシュア・ミトニック(テルアビブ在住ジャーナリスト)

エルサレムで政府のコロナ対策に抗議する超正統派ユダヤ教徒たち RONEN ZVULUN-REUTERS

<世界最速で接種を進めるイスラエルだが国民の分断と政治不信で黄信号が点滅>

いわゆる集団免疫を確立して新型コロナウイルスの感染拡大を封じ込める。そのためのワクチン接種競争で、他国に先んじているのがイスラエルだ。快走の秘訣は、人口が比較的少ない(国土も比較的狭い)こと、ワクチンの供給が豊富なこと、そしてピラミッド型の医療システムが機能してワクチンの配布が順調に進んでいることにある。

おかげでイスラエル(総人口930万)の接種率は今のところ世界一。既に国民の46%以上が接種を終えている。ちなみにアメリカはまだ11%程度だ。

だがイスラエル政府にとっては、ここからが正念場だ。ワクチンを信用しない人たちや若年層、そしてとかく閉鎖的な超正統派のユダヤ教徒やアラブ系住民の一部などを説得し、ワクチン接種に協力させるのは容易でない。

だが彼らの協力を得られなければ、国内の感染拡大を封じ込める日は遠のく。しかも国民の多くは、このワクチン接種キャンペーンが3月の総選挙で続投を目指すベンヤミン・ネタニヤフ首相を利するものと気付いており、そのせいもあって接種のスピードが鈍っている。

どうすればイスラエルはこの正念場を乗り切れるか。うまくいけば、もちろん集団免疫の確立を目指す各国にとって貴重な教訓となる。

集団免疫の定義はさまざまだが、一般には総人口の70%以上がワクチン接種を受け、あるいは既に(ウイルスに感染し、かつ回復して)免疫を持っていることが必要とされる。条件のいいイスラエルでさえ免疫保有率70%を達成できなければ、他の諸国の先行きは暗くなる。

接種率は低下傾向に

イスラエルが早めにワクチン接種を始められた要因の1つは、製造元の米ファイザーと直談判で話をつけ、接種後の副反応などのデータを提供することと引き換えに、ワクチンを優先的に確保できたことにある。そしてネタニヤフ首相自身、昨年12月に同国初の接種を受けている。

アメリカでは接種需要に供給が追い付かない状況が続いているが、イスラエルでは医療機関が滞りなく接種を進めてきた。結果、重症患者が減って医療従事者の負担が緩和され、3回目のロックダウン(都市封鎖)も解除できた。優先接種の対象となった高齢者(60歳以上)の90%前後は、既に1回目の接種を終えたとされる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアとウクライナの化学兵器使用、立証されていない

ビジネス

FRB、年内は金利据え置きの可能性=ミネアポリス連

ワールド

米、イスラエルへの兵器出荷一部差し止め 政治圧力か

ワールド

反ユダヤ主義の高まりを警告、バイデン氏 ホロコース
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 2

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 3

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 6

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 7

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 8

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 9

    ハマス、ガザ休戦案受け入れ イスラエルはラファ攻…

  • 10

    プーチン大統領就任式、EU加盟国の大半が欠席へ …

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中