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国際IT都市バンガロールが深圳を追い抜く日

Bengaluru Is the New Shenzhen

2021年2月11日(木)09時00分
サルバトール・バボーンズ(豪独立研究センター非常勤研究員)

バンガロールにある中国のスマホメーカー「シャオミ」のオフィス Abhishek N. Chinappa-REUTERS

<欧米企業の業務アウトソーシング先として急成長を遂げたバンガロールが世界のアプリ開発の中心に? 中国にはないインドのアドバンテージとは>

IT大国インド──。これはかなり以前から言われてきたことだ。だが、スマートフォンをはじめとするハイテクデバイスの爆発的な普及が進むなか、東アジアの製造業のサプライチェーンの外れに位置するインドは、このブームの恩恵をあまり受けられずにきた。

ところが、2020年代はデバイスからアプリへと重点がシフトして、インドが地理的なハンディを克服する可能性が高い。

なかでも注目されるのは、インド南部の都市バンガロールだ。ここには多くのスタートアップと、彼らに投資・育成するインキュベーターが存在する。フリップカート(ネット通販)やスウィギー(ネット出前サービス)、ウダーン(企業間通販サイト)、ビッグバスケット(食品雑貨ネット通販)など、インドを代表するIT企業の多くがバンガロールにある。インド版ウーバーのオーラキャブスは、会社の成長に伴い、優秀な人材が見つかりやすいバンガロールに本社を移した。

それだけにバンガロールがインドのシリコンバレーと呼ばれるようになったのも無理はない。だが、この街にはハイテク製品の工場はほとんどない。インドで販売されるiPhoneはチェンナイ(マドラス)で、サムスンのギャラクシーは首都デリーで組み立てられている。

もともとバンガロールは、1980年代以降に欧米企業の業務アウトソーシング先として成長を遂げ、インフォシス・テクノロジーズやウィプロといった大手を生み出してきた。その結果、インドのソフトウエア産業の中心となり、今や世界的にもその地位を築こうとしている。

既に2000年代初頭から、グーグルやIBM、マイクロソフト、シスコ・システムズといったアメリカのビッグ・テックは、インドの研究開発拠点をバンガロールに置いてきた。それがこの街にスタートアップカルチャーと積極的な投資をもたらし、インドにおけるアプリ開発の中心地となるのを後押ししてきた。

まとまった統計は乏しいが、インドは多くの国にとって最大のアプリ開発アウトソーシング先だ。インドで働くソフトウエアエンジニアの数は、アメリカに次ぐ世界第2位。2024年にはそのアメリカも追い抜く可能性が高い。

問題はその利益を、インド政府が国全体の雇用創出に再投資できるかだ。インドはコールセンターなどの業務アウトソーシング先としてサービス輸出大国になったが、貧困や失業といった社会問題はほとんど解決されなかった。

非熟練労働者にも雇用を

インドがグローバル経済のバリューチェーン(価値連鎖)の中でもっと上位に行くためには、世界のアプリ開発の中心としての成功をプログラマーという中間層の雇用創出だけでなく、労働者階級の雇用創出にもつなげなければならない。

そのためには、アプリ開発業者がプログラミングだけでなく、上流から下流まで事業を多様化する必要がある。例えば上流では、機械学習アルゴリズムの訓練データを用意する作業がある。画像に映っているアイテムのタグ付けや、道路の料金所や制限速度といった情報を登録する作業は、高い技能がなくてもできる。

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