最新記事

アメリカ社会

トランプ支持する極右「プラウド・ボーイズ」リーダー、麻薬取引などの捜査協力者だった

2021年1月28日(木)17時46分

米国社会を最近騒がせている白人至上主義の極右団体「プラウド・ボーイズ」のリーダー、エンリケ・タリオ氏(写真)は、2012年に詐欺罪で捕まった後、連邦や地元の捜査当局の有能な情報提供者として多くの「手柄」を立てた過去があった――。米ワシントンで2020年11月、米大統領選結果に対する抗議集会の現場で撮影(2021年 ロイター/Hannah McKay )

米国社会を最近騒がせている白人至上主義の極右団体「プラウド・ボーイズ」のリーダー、エンリケ・タリオ氏(36)は、2012年に詐欺罪で捕まった後、連邦や地元の捜査当局の有能な情報提供者として多くの「手柄」を立てた過去があった――。元検察官の証言やロイターが入手した2014年の連邦裁判所の公判記録で、こうした事実が明らかになった。

フロリダ州マイアミでのタリオ氏の公判では、検察官や米連邦捜査局(FBI)捜査官、タリオ氏の弁護士らが口をそろえて、同氏が幾度も潜入調査に携わり、薬物取引から賭博、密入国あっせんまで様々な事件で当局が13人を訴追する手助けをしたと述べていた。

タリオ氏は26日、ロイターの取材に対してこれを否定。公判記録について質問すると「そんなものは知らない。何も思い出せない」とけんもほろろだった。

しかし、司法関係者の証言やこの文書の内容は、タリオ氏の主張と正反対だ。タリオ氏の事件を担当した元連邦検事のバネッサ・シン・ジョアンズ氏は書面を通じてロイターに、タリオ氏がマイアミのマリフアナ栽培施設から医薬品詐欺に至るまで、さまざまな犯罪組織を訴追につなげるため、地元や連邦政府の法執行機関に協力したと認めた。

プラウド・ボーイズは、彼らが「アンティファ(反ファシズム運動)」と信じる極左勢力に対抗するために結成され、今月6日の連邦議会議事堂襲撃占拠に関与したことでも有名。そのリーダーで法執行機関から徹底的に監視されているタリオ氏が、実は以前に刑事犯罪摘発に力を貸していたというのだから、驚きを禁じ得ない。

議会襲撃2日前に武器準備しワシントン入りして拘束

議事堂襲撃事件の2日前、首都ワシントンに乗り込んだタリオ氏は当地の警察に拘束された。高性能ライフルの弾倉を2つ所持していたことと、昨年12月にトランプ前大統領支持者が行ったデモのさなかに「黒人の命は大事(BLM)」運動の旗を燃やした罪に問われたためだ。ワシントンの裁判所は襲撃事件前に、タリオ氏に市内からの退去を命じていた。

その結果、タリオ氏自身は襲撃事件に参加しなかった。しかし、プラウドのメンバー少なくとも5人が暴動参加で訴追されている。FBIはこれまでに、事件に先立ってタリオ氏を拘束したのは、6日の議事堂での政治的行事をにらんだ予防措置だったとしていた。

これほど物騒なタリオ氏が、法執行機関と関係があったという別の顔を見せたのが14年の公判記録だった。当時の公判で、担当検事とタリオ氏の弁護士がともに判事に対して、他の2人の被告とともに刑期を短くしてほしいと嘆願。タリオ氏らは、糖尿病検査キットの盗品の販売とラベル付け替えの詐欺行為を認めていた。

担当検事は刑を軽くする要求の理由として、タリオ氏がもたらした情報のおかげで、2つの事件で計13人を連邦法で訴追できたことなどを説明した。タリオ氏の弁護士を務めたジェフリー・フェイラー氏も法廷で、タリオ氏がさまざまな事件で潜入調査を行い、多くの訴追につなげた協力者だったと強調。

一例として、密入国捜査でタリオ氏が自ら危険を冒して組織と接触し、架空の家族を米国に密入国させるのに1万1000ドルを支払う取引を持ちかけ、摘発に結びつけたと弁論した。このほどフェイラー氏に取材すると、当時の裁判の詳細は覚えていないとしながらも「私は法執行機関と検察が与えてくれた情報に基づき、法廷で情報提供した」と話した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

過度な為替変動に警戒、リスク監視が重要=加藤財務相

ワールド

アングル:ベトナムで対中感情が軟化、SNSの影響強

ビジネス

S&P、フランスを「Aプラス」に格下げ 財政再建遅

ワールド

中国により厳格な姿勢を、米財務長官がIMFと世銀に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 2
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 3
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過去最高水準に
  • 4
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 5
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 6
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 7
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 8
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「リンゴの生産量」が多い国…
  • 10
    ビーチを楽しむ観光客のもとにサメの大群...ショッキ…
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 10
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中