最新記事

シリア

膠着するシリア情勢の均衡維持・再編のキャスティングボートを握らされているバイデン米新大統領

2021年1月23日(土)16時00分
青山弘之(東京外国語大学教授)

再びイスラエルがミサイル攻撃を行った。関係各国に翻弄されるシリアの人々...... SANA-YouTube

<再びイスラエルがシリアにミサイル攻撃を行った。イスラエル、トルコ、ロシアなど各国は、爆撃・ミサイル攻撃を通じて、バイデン新大統領が膠着状態にあるシリア情勢にどの程度、そしてどのように関与するかを見極めるようとしている...... >

米国のジョー・バイデン大統領就任(1月20日)後初となる爆撃・ミサイル攻撃が行われた。場所は、ドナルド・トランプ前大統領が就任後発となる軍事行動に踏み切ったのと同じ国、シリアだ。

最初に攻撃したのはイスラエル

最初に攻撃に踏み切ったのは、米国を最大の同盟国とするイスラエルだ。

シリア国営通信(SANA)はシリア軍筋の話として、1月22日午前4時頃、イスラエルがレバノンのトリポリ市方面から、ハマー県一帯に向けたミサイル多数を発射、防空部隊がこれを迎撃、そのほとんどを撃破したと伝えた。

aoyama0123a.jpg

出所:SANA、2021年1月22日

SANAはまた、この攻撃で、ハマー市西部のカーズー地区の民家3棟が被害を受け、中にいた一家4人(男性1人、その妻と子供2人)が死亡、女性1人、子供2人、老人1人の計4人が負傷したと報じた。

aoyama100123b.jpg

出所:SANA、2021年1月22日


イスラエル軍の攻撃に関して、英国を拠点とする反体制系NGOのシリア人権監視団は、ハマー市近郊の「イランの民兵」やレバノンのヒズブッラーの拠点5カ所が狙われ、いずれも完全に破壊されたと発表した。反体制系サイトのオリエント・ニュースは、ミサイルがレバノンの北部県アッカール郡沖の海上に展開するイスラエル軍の戦艦から発射された可能性が高いとしたうえで、「イランの民兵」とレバノンのヒズブッラーが駐留・展開する第47旅団基地とマアリーン丘が重点的に狙われたと伝えた。

イスラエルは今年に入ってすでに2度、シリア領内への越境爆撃を実施しているが(「イスラエルがシリア領内の「イランの民兵」を大規模爆撃、50人以上が死亡:米政権末期に繰り返される無謀」を参照)、今回も標的となったのはイランだった。

一方、ロシアのスプートニク・ニュースは、ハマー市一帯以外でも、タルトゥース県タルトゥース市、ダマスカス郊外県東カラムーン地方でも爆発音が聞こえたと報じた。

これに対して、シリア人権監視団は、タルトゥース県が爆撃を受けたとの情報は正しくないとする一方、ハマー市での住民への被害についても、シリア軍防空部隊が迎撃のために発射したミサイルの破片によるものだと発表し、SANAの報道内容を否定した。オリエント・ニュースなどの反体制系サイトも、シリア軍が発射した地対空ミサイルによって住民に被害が生じたと伝えた。

次に動いたのはトルコ

次に爆撃を行ったのはトルコだった。クルド民族主義組織の民主統一党(PYD)に近いハーワール・ニュース(ANHA)によると、イスラエル軍のミサイル攻撃の12時間あまりを経た1月22日午後3時45分頃、トルコ軍の無人航空機(ドローン)が、アレッポ県の対トルコ国境沿いに位置するアイン・アラブ市(クルド語名はコバネ)南の街道沿線の民家1棟を爆撃、これによって住民1人が負傷した。

アイン・アラブ市は、シリア政府と、PYDが主導し、米国が後援する自治政体の北・東シリア自治局が共同統治、ロシア軍が駐留、同地に近い国境地帯では、ロシア軍とトルコ軍が合同で警備活動を行っている。

トルコもまた、2020年末からシリア政府と北・東シリア自治局の共同統治下にあるラッカ県アイン・イーサー市一帯、アレッポ県タッル・リフアト市一帯、ハサカ県タッル・タムル町一帯への砲撃を強めていた(「シリア北部で軍事攻勢を強めるトルコ:内戦の面影を失ったシリア内戦の今」を参照)。

出所:ANHA、2020年1月22日
今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ、鉱物協力基金に合計1.5億ドル拠出へ

ワールド

中韓外相が北京で会談、王毅氏「共同で保護主義に反対

ビジネス

カナダ中銀、利下げ再開 リスク増大なら追加緩和の用

ワールド

イスラエル軍、ガザ市住民の避難に新ルート開設 48
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中