最新記事

シリア

イスラエルがシリア領内の「イランの民兵」を大規模爆撃、50人以上が死亡:米政権末期に繰り返される無謀

2021年1月14日(木)14時00分
青山弘之(東京外国語大学教授)

Nida’ al-Furat、2021年1月13日

<イスラエル軍がシリア北部に大規模な爆撃をおこなった。米国の諜報機関の高官が、爆撃が米国との連携のもと、イスラエル軍によって行われたと暴露した......>

イスラエル軍は1月13日未明、シリア北東部のダイル・ザウル県のユーフラテス川西岸一帯にかつてないほど大規模な爆撃を実施した。ドナルド・トランプ米大統領が退任(ないしは罷免)を間近に控えるなか、シリアへのこうした激しい爆撃には既視感を覚える。

オバマ前政権による大規模爆撃

似たような爆撃がバラク・オバマ前政権末期にもあったからだ。

オバマ前政権は、ロシアと共同議長を務めていたジュネーブでの和平プロセスが頓挫し、シリアのアル=カーイダであるヌスラ戦線(当時の呼称はシャーム・ファトフ戦線)が主導する反体制派の最大の拠点だったアレッポ市東部の陥落が、シリア軍とロシア軍の攻勢を前に時間の問題となるなか、奇妙な行動に出た。

2016年9月17日、米軍は、当時イスラーム国の包囲を受けていたダイル・ザウル市近郊のサルダ山に展開するシリア軍に対して爆撃を加えたのだ。英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、この爆撃でシリア軍将兵、国防隊(親政権民兵)戦闘員94人が死亡、110人あまりが負傷した。

また、イスラーム国はこの爆撃を利するかたちで、サルダ山への攻勢を強め、一時制圧するという戦果を上げた。

シリア政府やロシアは、米国のこうした「テロ支援」がシリアでの紛争解決を遅らせ、混乱を持続させていると批判した。

大規模爆撃への予兆

それから4年4ヶ月を経て、ダイル・ザウル県は再び激しい爆撃に晒されることになった。攻撃に踏み切ったのは、今度はイスラエルだった。

今年に入ってイスラエルはすでに1度シリア領内への越境爆撃を実施している。イスラエル軍戦闘機は1月6日午後11時頃、占領下のゴラン高原上空からシリア南部の複数カ所にミサイル複数発を発射した。

国営のシリア・アラブ通信(SANA)は、シリア軍防空部隊がこれを迎撃し、ほとんどのミサイルを撃破したと伝えた。だが、シリア人権監視団によると、スワイダー県ダウル村西のレーダー大隊基地、同県北西部のナジュラーン村の大隊基地、レバノンのヒズブッラーをはじめとする「イランの民兵」や国防隊が展開するダマスカス郊外県キスワ市の第1師団基地一帯などが標的となり、レーダー大隊基地で1人、第1師団基地一帯で2人が死亡、各所で合わせて11人が負傷した。

「イランの民兵」とは、イラン・イスラーム革命防衛隊、その精鋭部隊であるゴドス軍団、そしてこれらの組織の支援を受けるヒズブッラー、アフガニスタン人からなるファーティミーユーン旅団、パキスタン人からなるザイナビーユーン旅団などを表す蔑称で、「シーア派民兵」と呼ばれることもある。シリア政府は、国防隊、ロシアの支援を受けるパレスチナ人民兵組織のクドス旅団などを含めて「予備部隊」、ないしは「同盟部隊」と呼んでいる。

また「ソレイマーニー司令官暗殺から1年:「イランの民兵」を狙った爆撃・ミサイル攻撃が相次ぐシリア」でも述べた通り、イラン・イスラーム革命防衛隊ゴドス軍団のガーセム・ソレイマーニー司令官がイラクの首都バクダードで米軍によって暗殺(2020年1月3日)されてから1年が経ち、米国やイスラエルがイランからの報復に警戒感を強めるなか、シリア政府の支配下にあるダイル・ザウル県のユーフラテス川西岸地域各所で「イランの民兵」を狙った爆撃が相次いだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

南アCPI、8月は予想外に減速 金融政策「微妙な判

ビジネス

英8月CPI前年比+3.8%、米・ユーロ圏上回る 

ビジネス

インドネシア中銀、予想外の利下げ 成長押し上げ狙い

ワールド

世界貿易、AI導入で40%近く増加も 格差拡大のリ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 9
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 10
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中