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「千人計画」の真相――習近平の軍民融合戦略で変容

2020年10月22日(木)22時53分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

五星紅旗が人材を集める kemalbas-iStock.

2008年に始まった千人計画は人材養成のための外国人専門家募集事業だったが、習近平の「軍民融合戦略」が始まって以来、完全に姿と目的を変えてしまった。1996年に始まった帰国中国人元留学生との違いも明確にする。

1996年に始まった中国人元留学生を帰国させる計画

まずは1996年の第9次五ヵ年計画から始まった中国人元留学生たちの帰国誘致計画からご説明する。

中国では1966年から1976年まで文化大革命(文革)があり、その間、紅衛兵などの革命委員会が管轄する「工農兵学院」以外の全ての高等教育機関が閉鎖された。そのため多くの青年が学問を受ける機会がなかったので、1983年から私費留学生の海外留学が許可されると、堰を切ったように学問に飢えていた若者が海外に飛び出していった。

学問への渇望は尋常ではなく、二度と再び「あの恐るべき独裁国家・中国には戻るまい」と決意していた若者は多かった。特に1989年6月4日に天安門事件が起きると、アメリカなどではアメリカに永住できるグリーンカードを求める者が多く、当時のジョージ・ブッシュ大統領は積極的にグリーンカードを発行して中国人留学生を保護した。

ところが天安門事件によって西側諸国から激しい経済封鎖を受け、一党支配体制が崩壊しそうになったというのに、「中国を助けなければ」と必死になって動き始めた国があった。

日本だ――!

日本は中国の手練手管に乗ってイの一番に経済封鎖を解除しただけでなく、さらなる甘い言葉を囁かれて、なんと天皇陛下訪中まで許してしまった。

それを見た西側諸国は、このままでは日本だけが得をしそうだと見て、我先にと中国に投資するようになったのである。その結果、中国経済は飛躍的な成長を見せ、1990年代半ばには海外の大学で博士学位を取得し、すでに起業しているような中国人元留学生たちの心を刺激し始めていた。

一方、中国国内では文革期の人材欠損と有能な人材の海外流出によって、人材が枯渇し、それ以上の経済成長が見込めないような状況に達していた。

そこで1996年に出された第九次五か年計画(中国で「九五」と省略)において、海外にいる留学人員(留学した人々。元留学生を指す)を中国に呼び戻すプロジェクトが始まったのである。

たとえば、このページなどをご覧になると、その痕跡が残っている。

以来、2017年までに中国に帰国した留学人員の累計は313.2万人で、内231.3万人(73.8%)は習近平政権以降に帰国している。

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